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2008.06.11

「源氏物語」をどう見るか(4)

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(写真は、「源氏物語千年紀」関連のイベントポスター)

源氏物語を「好色」だからと排除した勢力の一方で、「好色」だからこそもてはやした者達も、もちろん存在した。
江戸時代のそれを、はなはだ大雑把ではあるが紹介してみたい。

さて、もしも、

あなたが、大学の文学部に進み、国文科とか日本文学専攻とかを選んで、研究対象を決めるとする。
「紫式部の源氏物語にします」
と言えば、友人とか家族とか、一般の人は
「ええな~、結構やな~」と納得するであろう。
しかしこれが、
「井原西鶴の好色一代男にします」
と言い出すと、まあ、ほとんどの人は引くに違いない。
「こ、好色って、あんたそんなえげつないものを・・・」

だが、「好色一代男」こそは、「源氏物語」を受け継ぐ文学作品の画期的なひとつであった。
構成からして「源氏物語」が54帖であるのにならい、主人公・世之介の人生を7歳から60歳までの54年間、54章で描いている。
そして、「源氏物語」が取り扱った「いろごのみ」=多くの女性を遍歴する男のロマンを、江戸の現世に再現するものだったのである。

けれど小説の内容としては、ひたすら女性との交情を描いており、「好色」がただただ、色欲の充足とみなされていく結果になった。
それは遡って、原型である「源氏物語」の「いろごのみ」もそう解釈されてゆく風潮を生んだかもしれない。

江戸時代の文芸はさまざまな展開をしていくけれど、「源氏物語」と「好色」の系譜はやがてもうひとつの爆発的ヒット作を生む。

その名も「偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)」。
将軍直属の武士・旗本出身の柳亭種彦が作者であるが、この本、38巻に及ぶ大作で、1000部も売れればベストセラーと言う時代に、各巻それぞれが1万巻も売れたという超ベストセラー。貸本が普通だったので、おそらく江戸の町民がほとんどみんな読んでいた。
内容は源氏物語を江戸時代に移し変え、光源氏は「足利光氏」という武士で、足利将軍や山名・細川など大名のお家騒動のなかで、活躍するというもの。
ただし、読者の興味は勧善懲悪的活劇にはなくて、主人公の「好色」な女性遍歴描写が、当時の江戸将軍家「大奥」の内情暴露ではないかというところにあった。
そのために時の権力に睨まれ、ついに発禁処分を食らい、作者も程なく死んで(自殺説あり)、作品としては中断している。

だがこの「田舎源氏」こそが、当時の江戸の庶民にとっては「源氏」だった。
光源氏はよく知らないが、足利光氏こそはわれらがヒーローであり、アイドルなのであった。
また、「田舎源氏」の本は、挿絵が大きな役割を果たし、文章はむしろ従、今で言うマンガみたいな感じだった。そしてその挿絵を描いたのが浮世絵師・歌川国貞で、売れたのは彼の絵のおかげだと、柳亭種彦のライバル、滝沢馬琴は皮肉っている。
ついには、「田舎源氏」の挿絵や、その名場面を描いたものを「源氏絵」と呼ぶようになり、単独でももてはやされるようになった。国貞もノリまくって描きまくり、1千枚に及ぶという。

「源氏物語」原文はほとんど読まれていないが、挿絵たっぷりの「田舎源氏」は誰もが読んでいる・・・
この江戸時代の構図、現代と良く似ていると思う。

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コメント

好色一代男にしますぅ~!
って言ったら、絶対引きますねぇ(笑)
「源氏物語」は大好きで田辺聖子さんと瀬戸内さんのを読みましたよ。
原文は難しいので読む気がしませんが...^^;
でも一番わかりやすくて面白かったのは「あさきゆめみし」と言うマンガがです(^^♪
うちの息子に読ませたらその後、古文が大好きになりましたよ。
やはり、ビジュアルから入ると親しみやすいですね。

投稿: れこりん | 2008.06.11 20:10

☆れこりんさん、田辺先生と瀬戸内先生、どちらも読まれたとは素晴らしい。そして、「あさきゆめみし」は圧倒的に読んだ人が多いですね。原文はもとより、ほかのどんな現代語訳よりも発行部数が段違いに多いのです。このあと、その辺にも触れていきますので、よろしく。

投稿: 龍3 | 2008.06.12 00:16

龍3さんこんばんは~。最近の解説シリーズ、とても楽しませていただいております。勉強にも。あまり文学には詳しくないですが、いまさらながら「徒然草ってどんなだったけな」とか懐古しています。文学って楽しいですね~♪

投稿: hayate | 2008.06.12 21:34

☆hayateさん、こんばんは。
この論文みたいなもの、不勉強なわしが、泥縄で源氏物語に取り組んで、わしなりにわかったことを綴ってる拙いものに過ぎませんが、楽しんでいただければ、ほんまに嬉しいです。
文学って、楽しいですよ。源氏物語はその最高傑作のひとつです。楽しまなければ損です。

投稿: 龍3 | 2008.06.13 00:55

現存する世界最古の小説ってのは誇って良いですよね。
 オリジナルを知らないで、読んだ気になってるってのはありがちです。源氏は漫画と参考書の口語訳でって感じですね私も。あ、沢田健二だったかのドラマも見たことあるぞw八千草薫さんの藤壺が美しい。
 最近はいろんなあらすじ本もあるしなあ。それきっかけにちゃんと読んでみようと思えれば良いんだけど
 関係無いけど、若い人の間に蟹工船が流行ってるらしいですね。

>徒然草
底抜けになつかしおまんがな!

いやあの、徒然って見たら「そぉこぉぬ~けぇ・・・」って言ってみたくなっただけですすいません。

投稿: Bach | 2008.06.15 14:47

☆Bachさん、あの八千草薫さんの藤壺、わしも見て覚えてますわ!なつかし~~~
現代語訳やあらすじ本、たくさん出てますが、わしは田辺聖子さんのものが好きで、今読んでます。
ところで、「蟹工船」がはやるの、無理ないご時勢だとわしも思いますよ。
で、その「徒然」と「底抜け」が、わしにはわかりません。残念だ・・・って前も同じパターンだったな(笑)

投稿: 龍3 | 2008.06.16 00:58

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