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2006.10.06

京都と「作家」 その3 山村美紗

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京都を舞台に数多くの作品を書いたということでは、谷崎も川端も遠く及ばず、おそらくは空前絶後であろうと思われる作家がいる。

推理作家・山村美紗である。

彼女こそ、京都で活躍し、京都で生涯を終えた作家の代表と言うことも出来よう。多くの作品が映像化されて広範に鑑賞されたという点でも群を抜く存在だ。

しかし、彼女は最初のうち「京都」を売り物にしていなかったようである。「日本のアガサクリスティ」が彼女の初めのニックネームであり、「女流の本格推理」で勝負していたのだ。
わしの手元にある『京都殺人地図』(徳間書店)という初期の短編集では、舞台になるのは伏見桃山とか長岡京とか、観光スポットと縁のない土地であり、登場人物も主人公の女検視官を除けば地味な一般人ばかりだ。当時彼女は宇治に住んでいて、土地勘のあるところを地道に描いていたのであろう。

ところがやがて、彼女の作品の中では、祗園祭りの鉾が暴走して犯人をひき殺したり、和服美女が八坂神社で矢を突き立てられたりという、絢爛たる展開が売り物になっていく。まさにそれは絵になる場面を要求するテレビドラマにうってつけで、山村美紗ミステリー・サスペンスは2時間ドラマの定番となった。(これを書いている今日の夜も「赤い霊柩車シリーズ」の21作目がオンエアされるのだ。)
彼女自身も住処を東山の豪邸に移し、華やかなドレスを身にまとった姿で、「サスペンスの女王」としてマスコミの寵児となっていった。

夥しいその作品で、京都を殺人の舞台としてきた彼女であるが、その華麗なイメージと裏腹に、彼女の文章は実はちっとも絢爛としていない。抑制が効いているというか、素っ気無いというか、淡々と経過を綴る冷徹なタッチである。
やはり彼女の真髄は巧緻なトリックで読者を唸らせる「推理」にあって、京都の文物や魅力を語るのは添え物でしかなかったのだと思う。彼女の描く京都は紋切り型であり、薄っぺらい印象を抱かせるのだが、これは仕方のないことだろう。
彼女の作品は、あらかじめ読者の抱く「京都らしさ」に迎合して描かれた。改めて京都の魅力を日本中に宣伝した功績は多大であるが、極力血なまぐささ、陰惨さを排除して描かれた死体を京都中に転がしたことで、それらのスポットのイメージが安直になってしまったのは否めない。
恐らく本人もそれは気になっていたのだと思う。『京都ミステリー傑作選』(河出文庫)というアンソロジーの序文に彼女は
「観光客の多くは、ロマンチックな恋の物語で知られる嵯峨野の寺々や、桜、紅葉などの美しい風景、可愛い舞妓さんに代表される華やかな京都しか見て行かない。しかし、観光客の何気なく踏んでいく石の下には、歴史の流れの中で、無念の死を遂げた人たちの屍やどくろ、そして、血や怨念があるのだ。」
と書いている。
しかし、ついに彼女はそうした陰惨さや怨念を描くことはなかった。華やかな舞台と常識的な動機で語られる、安心して読める作品が膨大に残された。
超人的ペースで書き続け、急逝した彼女は、それをどう思っていただろうか。

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コメント

山村美沙さんは、まだまだ作品を書かれるであろうと思われるころになくなったので、あのまま生きれおられたら、だんだんと京都の奥深いストーリーも生まれたかもしれませんね。
でも、娘の紅葉さんが語る母親美沙さんは、なんとはなしに面白いですよね。
ちょっと現実離れしている気もしますけど・・・苦笑。

ところで、私も、「京都在住 小説家 作家」 で検索してみました。
やっぱり、こちらが真っ先に出てきましたよ~w

投稿: よりりん | 2006.10.07 00:08

よりりんさん、改めて山村美紗女史の作品を少し読み返してみたんですが、京都が舞台であっても、全く登場人物が京都弁を喋ってなかったり、名所の説明がガイドブックに書いてあるとおりだったり、なんとお寺の名前が「近所のお寺」と書かれているだけだったりで、どうも彼女の興味は全く「京都」にはなかったのではないかと思うのです。
ただ、膨大な作品量ですし、中には京都が主題に重厚に絡まったものもあるのでしょうか?そちらへ進む気配もあったのかなあ・・・わかりません。

投稿: 龍3 | 2006.10.07 23:45

「山村紅葉」さんのお宅を教えて頂きました。
有名寺院に近くてそれでかつひっそりとしているいい場所にお住まいだなぁって思いました。

投稿: yume | 2006.10.08 17:18

yumeさん、紅葉さんのお宅は、故人となられた山村美紗さんのお屋敷と一緒でしょうか?西村京太郎氏と隣で、かつては連絡通路もあったという、元旅館の。
たしかに良い場所で、今も観光客やファンが訪れては門前で記念写真を撮っていくと聞いていますが。

投稿: 龍3 | 2006.10.11 02:00

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