« 高台寺の七夕会 | トップページ | 随想・祇園祭 その参 »

2005.07.04

随想・祇園祭 その弐

小説「祇園祭」
 西口克己という、京都出身、在住だった小説家がいる。
 年譜によれば、1913年(大正2)に、伏見中書島の娼家に生まれ、京都三高(旧制第三高等学校)から東大文学部に進み、1946年(昭和21)に日本共産党入党。1950年の党分裂の際、「除名」され、義母名義の娼家の片隅に逼塞しながら書いた小説「郭」が、1956年(昭和31)にベストセラーとなり、小説家として認められる。
また、1955年(昭和30)には、日本共産党の統一と同時に党へも復帰。1959年(昭和34)に京都市会議員に当選し、四期勤めて、京都府会議員に当選。これも三期に渡って活躍した。
 小説の代表作は「郭」のほか、「文殊久助」「山宣」「祇園祭」「新幹線」「Q都物語」などがある。
 1986年3月15日永眠。

gionmaturito_0021 小説「祇園祭」は最初、1961年に中央公論社から出版されたが絶版となり、その後弘文堂からの再刊もまた絶版、わしが買ったのは1968年に東邦出版社から出されたもので、表紙の絵は滝平二郎の切り絵によるものである。
 内容は、室町末期、祇園祭復興に自らの誇りと平和に生きる権利を求めた京都町衆のたたかいを描いたもので、ラストの天文二年の祇園会山鉾巡行に至るまでのダイナミックな筆致は壮烈である。

 「・・・よいか、皆の衆、―ようく聴いてくれ―くりかえしいうが、将軍家の命令は神事停止じゃ。社殿での祈願や、神輿渡御など、つまり神官たちの執り行う儀式は取りやめよというのじゃ―よろしい、どうしても命令にそむけぬというのであれば、一切の神事は取り止めてもらおう―ただし―ただしじゃ―たとえ神事これなくとも、山鉾渡したし!―これば、わしらの決心じゃ!」
 「もともとこの鉾は、京町衆のものなのだ。洛中の数知れぬ人々のためのものなのだ。京都を捨ててかえりみぬ将軍の、一片の命令で左右されるものではないのだ。そんな命令に媚びへつらうような、腐りきった祇園社の神官どもに用はない。まがれ、鉾!八十尺の鉾頭を、堂々と南に向けるがいい!」
 「―山鉾は、―美しい祇園会の山鉾は、戦さぎらいの京町衆が、殺されても、殺されても、ついにその念力で動かしたのだということを、こいつらに見せてやるのじゃ―のう、頼む、―わしを、―わしをもう一度、あの鉾の上に乗せてくれ―笑いながら、鉾の上で死なせてくれぬか・・・・」

 戦乱の中で平和を希求する町衆は、支配階級の妨害をはね返し、平和の祭典たる祇園祭を復興する。その中心人物となった青年、笹屋新吉のロマンスをからめながら描かれる物語は、波乱に富んだ筋立てで、実に面白く読めるものでありつつ、「民衆こそ歴史の主人公」という作者の信念が貫かれているのである。文体も、作者の肉声のように熱情みなぎって、わしは読み返すたびに熱い感動の涙がこらえきれない。
 山鉾巡行の様子を「何千何万もの人波をかきわけてすすむ巨大な艦隊」と描いた西口克己の視点にわしは激しく共鳴する。あの巡行は、豪華絢爛なだけではない。町衆の心意気を高く掲げて進む、勇壮な戦列なのだ。

 そしてこの作品は、映画化されている。しかし、今やそれは「幻の映画」なのである。それについては次項で。

☆現在、小説「祇園祭」は、新日本出版社から出されている「西口克己小説集」の一冊として購入できます。 

|

« 高台寺の七夕会 | トップページ | 随想・祇園祭 その参 »

コメント

私のようなうわべだけの「京都好き」ではない龍さんが見えてきます。
京都に関する小説もたくさんご存知ですね。
少し前の朝日新聞の別刷判に近松赤江さんの書かれた小説についても書かれていて、読んでみたくなりました。
京都を舞台にした小説をゆっくり読む時間が欲しいです。

投稿: yume | 2005.07.04 22:04

yumeさん、うわべだけの京都好き、などと、なにをおっしゃいますか。、毎日見せていただいているyume-cafeからは、京都への深い愛が伝わってきますよ。

少し前の朝日新聞別刷りの近松秋江の小説、というのは、「黒髪」「狂乱」「霜凍る宵」の京都三部作でしょうか。
実はわしも、最近読んだばかりです(^^)
インターネットの電子図書館・青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/
へアクセスしますと、著作権の切れた文学作品が沢山用意されていまして、自由にダウンロードできるんですよ。

投稿: 龍3 | 2005.07.05 00:01

あ~!
切り絵!
これ、知っています。
この人の切り絵が好きなのでしっているともいいますが・・・汗。
でも、本の内容は知りませんでした。
ご紹介ありがとう!!

投稿: よりりん | 2005.07.05 08:11

龍さん おっしゃる三部作の小説です。
自由にということは、無料ですよね?
私も是非 読ませていただこうと思います。

投稿: yume | 2005.07.05 21:28

☆ よりりんさん、滝平二郎さんをご存知でしたか。切り絵の好きな方なら、たいてい知ってらっしゃいますね。斉藤隆介さんと組んで作った絵本などが有名で、「ゆき」などをわし、愛読したものでした。

☆ yumeさん、もちろん無料ですよ。わし、いろいろ参考にさせてもらってます。便利な時代になったものです。

投稿: 龍3 | 2005.07.07 00:43

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/20826/4824375

この記事へのトラックバック一覧です: 随想・祇園祭 その弐:

« 高台寺の七夕会 | トップページ | 随想・祇園祭 その参 »