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2005.07.22

随想・祇園祭 その四

宵山追慕

yoiyama_007

 宵山も山鉾巡行も過ぎてしまったけれど、僕の胸の中にはまだ、祇園囃子が鳴り続けている。
 そして、忘れられない歌声が響いている。
 七月のあいだ中、祇園囃子とあの歌声は、僕の胸をうずかせるのだ。

 「・・・常は出ません、今晩限り
 ご信心の、おん方さまは・・・
 ろうそく一本献じられましょう
 ろうそく一本、どうですか~」

 宵山に、粽やお守りを売る、鉾町の子供たちが歌う歌だ。
 けれど、僕の耳に残るその歌は、乙女の声なのである。
 可憐な容姿に、強い意志を秘めて、なおかつ優しかった人だ。

 京都で学生生活を始めたばかりの僕に、あの人は「京おんな」の理想と映った。手もなく心惹かれ、憧れた。あの人が主催していたサークルに入り、文学を論じた。コンパに繰り出し、酒を飲んだ。酔ってあの人にからむ奴には鉄拳で応じた。いつもあの人を見ていた。あの人に認められたいと、背伸びして沢山の本を読んだ。
 そして、あの人が活動していたから、学生運動にも身を投じたのである。

 ささやかなる疾風怒濤の時代。
 高揚もあれば挫折も経験した。友情も培ったが裏切りもあり、傷もいっぱい残る。
 その、どちらかといえば苦かった「青春」の只中で
 蒸し暑い夏の夜に、あの人がこう言った。
「そういえば、今日は宵山やなあ・・・うちも、子供の頃、浴衣着て粽売ったことあるんよ」
 そして、あの人の唇から流れた、あの歌。
 細く、透き通った声が、どんなにか甘く、僕の心に染み透って行っただろう。
 その頃、僕は知っていた。
 あの人に恋人がいることを。

 やがて、あの人は卒業し、数年して僕も社会に出た。
 消息を知るすべはあったけれど、特に連絡などもしなかった。
 歳月は流れて、ある春の日の円山公園野外音楽堂。
 人込みの中に、あの人の姿があった。
 生き生きした目の光も、小鹿のような容姿も変わっていなかった。
 僕はその頃、結婚したばかりだった。
 そう伝えるとあの人は笑顔を見せて、屈託なく話した。

 それから、どれほど経っているだろう。
 宵山を彷徨い、子供たちの歌声を耳にするたび
 僕の胸は甘美にも痛い。おそらく、いつまでもそうだと思う。

 ☆今、本で調べるとあの歌は「占出山」の町内に伝わる歌のようだ。

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コメント

淡く、綺麗な初恋ですね。
素敵な思い出があっていいですね。

九州の人に私は「京おんな」と映ったみたいでした。
ああいう人を「京おんな」って言うのよ。。と

さあて どうでしょう?(笑)
京都の隣に住んでいるから 「京おんな」に近いけれど、そんな上品さ、賢さ持ち合わせていませんもの。。

投稿: yume | 2005.07.22 22:42


男ってなんでこうなんですかね。
ロマンというか
いつまでも昔の人を想っているというか(笑)

「オンナ」は、醒めてますよ~(爆)


投稿: 松風 | 2005.07.22 23:08

龍3さん、こんばんは。
「随想・祇園祭」、とても印象に残るお話にいつも浸っています。
祇園祭、特に宵山って強く惹きつけられる何かがある気がします。
そして宵山とともにインプットされたことって、他の何よりも心に残るんですよね・・・。
龍3さんの「随想・祇園祭」に出会えて良かったです。
本当にありがとうございました。
これからも素晴らしい文章、読ませていただきます!

投稿: モヨコ | 2005.07.23 01:45

☆ yumeさん、おおきに。
臆面もなくこういうことが書けてしまうのがわしの唯一の強みです(笑)
京都を深く愛するyumeさんは、十分に「京おんな」と呼ばれる資格があると、わしは思いますよ。

☆ 松風さん、そうですよね(笑)
まあ、わしの思い出話の場合、はなっから片思いでしたので、醒めてるもなにもないんですが(苦笑)

☆ モヨコさん、おおきに。
宵山とともに、いくつもの、いや、数え切れないほどの思い出が、人々の心にインプットされて、残り続けるのでしょうね。
過分なお言葉、涙ぐむほど嬉しいです。

投稿: 龍3 | 2005.07.23 02:58

龍さんの小説の原点なんだなぁ。。って
ふと思いました。

投稿: yume | 2005.07.24 20:49

yumeさん、おっしゃるとおりです。原点の一つであります。これから、しっかり本気で小説、書いていきます。

投稿: 龍3 | 2005.07.25 00:06

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