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2005.06.04

小説「流れのほとりで」第十四回

keraba

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 いかにも京都らしいお茶屋の続く前を、英輔は通り過ぎ、恩田と美沙子を招いたのは、あまり古くもない住宅の前である。
「祇園新橋伝統的建造物群保存地区、って言いまして、あっちのお茶屋のほうこそが京町家の典型みたいに見えますが・・・」
英輔は、照れたように顔をほころばせ、説明を始める。
「お茶屋は二階でお客をもてなすんで、普通の町家より、二階が大きいんですよ。で、わかりづらいんで、こっちの方で観てもらいます。二軒の家が、ほとんどくっついて建てられているでしょう?」
恩田と美沙子が、英輔の指差す先を振り仰ぐ。
「屋根を見てください。隣り合った家の屋根の高さが僅かに違っていて、重ねてありますね。あの重なっている部分の屋根を、ケラバって言うそうです。あの小さな屋根で、隙間の壁に雨が降り込むのを防ぐんです。」
恩田が敏感に頷く。
「そうか・・・町家は、こうやって隣り合って続いているから存在しうるんだ。単に統一した綺麗な景観という以前に、それでないと保全が難しい・・・」
「さすが、本職ですね、おれは、本で読みかじっただけなんで、あまりえらそうに講釈するのもなんですが、隣がなくなって、町家が単独で立つと、あの側面の壁が剥きだしになります。防水も何もしてない壁なんで仕方なく板を張ります。焦がした杉板とかなら、格好がつきますが、値が高いし耐久性もあまりないので・・・ほら、あそこみたいにトタン板を張るところが多い。するともう、風情も景観も台無しになっていくわけですよ」
 恩田は空き地に面して無残にトタン板の壁を晒している町家を見て、腕組みをした。
「古ければ、京町家、というわけではないんだね」
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