« 補足・京家のコロッケ | トップページ | 東本願寺 »

2005.06.10

小説「流れのほとりで」第十五回

nagarenohotori

----------
 冬にしては明るい日差しが鴨川を照らしている。英輔は穏やかな気分で、恩田夫妻を連れ、水面を眺めた。
「差し出がましいことをしてしまったかと、内心びくついてたんですけど」
英輔の言葉に、恩田はかぶりを振る。
「いえ、いい勉強をさせてもらいました。美沙子のためにも、しっかり仕事を取って稼がないといけないと思って焦って、危ういことの片棒を担がされるところだった。お礼を言いますよ」
 美沙子が顔を上げて、恩田を見つめる。表情が曇っている。それに気付かない様子で、恩田は上機嫌に続けた。
「今、少し教えていただいて、京町家に改めて興味が持てました。それで、新しいアイデアも浮かんできたんですよ」
「ほう?どんなことでしょう」
相槌を打つ英輔に、恩田は熱弁を振るい始める。
「バブル崩壊と、テロばやりで外国旅行がすっかり下火になって、代わりに京都が大ブームだ。東京のデパートでも毎日のように京都の物産特集をやってるし、ついには、京都の町並みを取り入れた、上品な和風テイストのショップも出来つつある。そして、ご存じないと思いますが、東京にも舞妓がいるようになったんです」
「え?なんですって」
英輔は耳を疑った。恩田はここぞと得意げに声を上げる。
「浅草に芸者がいるのはご存知でしょう?あそこに、振袖さん、というのが出来たんですよ。今まで、京都の舞妓にあたる若い半人前の芸者を半玉と言ってましたが、舞妓とはまるで格好が違ってたでしょ?それを、ほとんど舞妓と同じ姿にしたんです。正確には半玉がそのままなったわけじゃなくて、雇用形態は新しい形らしいんですが、まあ、そんなことはどうでもいい。特に外人客には舞妓そのもので通用します。その振袖さんを、正確に作った京町家に置くことで、一層グレードは上がるじゃないですか」
 唖然としていた美沙子が、恐れをなして口を挟んだ。
「あなた、何を言ってるの?新しいアイデアってまさか・・・」
「東京に、小京都を作るんですよ。もう、それらしいものは既にあるんですが、振袖さんと組み合わせることで集客力は大幅にアップします。舞妓さんのいる京都が東京に出来るんだ。日光江戸村など目じゃない、京都村、これは受けますよ。私がその町家を設計して・・・」
 激しい虚脱感とうそ寒さに身をさいなまれ、英輔は橋の欄干を握り締めた。救いを求めるように向けた視線が、哀しみに満ちた美沙子の目と交錯した。
----------

|

« 補足・京家のコロッケ | トップページ | 東本願寺 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/20826/4489805

この記事へのトラックバック一覧です: 小説「流れのほとりで」第十五回:

« 補足・京家のコロッケ | トップページ | 東本願寺 »