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2005.06.01

小説「流れのほとりで」第十二回

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 暗澹たる気分で、ただひたすら足を動かし、英輔は鴨川を東に渡って、祇園の路地に踏み込んでいた。
 無知と、無鉄砲と、理想とで突っ走っていた若い頃、英輔は奇跡のように一人の舞妓に出会い、恋をした。成就するはずのない想いに燃え上がり、思いあがり、学生生活を棒に振った。
 それから幾年月・・・その舞妓の顔すらも忘れていたつもりだった。なのに、今、鮮明に浮かんでくるのはなぜだと、自問する。
(似ているのか・・・?美沙子が)
 厚い白塗りの下の素顔を、英輔は記憶の彼方からたぐりよせる。そうだ、彼女もまた、京都生まれではなかった。中学まで過ごしたふるさとの話を、隠れ家のように使ってデートした御幸町錦の小さな暗い喫茶店で、無邪気に話してくれたのではなかったか。

「うち、京都に来て、鴨川と比叡山が見えたとき、安心したん。川があって、その向こうにおっきな山が見えるんは、うちのふるさとの景色とおんなじやったから・・・」
「へえ!おれも、そうおもったよ。おれの場合は、鴨川に当たるのが、松川、比叡山は、風越山・・・って、言っても知るわけないよな」
「うん、しらへん。でも、いつか見てみたいな」

 遠い声が耳を打つ。
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