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2005.04.15

小説「流れのほとりで」第六回

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 その喫茶店は山科の住宅街にあって、洋館が違和感なく郊外の景色に溶け込んでいる。
 英輔は、暖炉の前の席に美沙子を導いて腰掛けた。
「年季の入ったテーブル・・・市外にもこんな素敵なお店があるのね、京都って」
「あの、ここも京都市内なんですけどね」
 目を輝かせて室内の調度を見まわす美沙子に、英輔は苦笑した。ベイクドチーズケーキと紅茶を二人分注文すると、英輔は真顔になり、テーブルに手を置いて美沙子に訊ねる。
「それで、ご主人に内緒で、相談というのは・・・?」
 茶色のスーツ姿の美沙子は、白い首を曲げて、窓の外を眺めた。独り言のように言う。
「あの、沢井っていう人が、恩田にさせようとしている仕事・・・ご存知?」
「いや・・・私は、ガイドですから。ただお客様に京都を案内するだけですよ」
「京都のおんぼろ民家を、できるだけ安く改修して、まちや、に見せかけて、喫茶店や雑貨屋をしたいと思っている人に売りつける・・・いんちきな商売の片棒を担がされようとしてるの」
 英輔は言葉に詰まり、コップの水を飲んだ。

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「私は、京都が好き。なんか、日本の中でも、ひとつだけ特別に憧れる街。だから恩田には、そんな、京都を壊していく仕事に関わって欲しくないの。南原さんも、京都のガイドなら、京都を守っていきたいでしょ?なんとか、ならないかしら・・・」
 紅茶とケーキが運ばれてきた。英輔は黙ってフォークを取り、チーズケーキを口に運んだ。美沙子もそれに習う。
「・・・美味しい!」
「でしょ?・・・ここは、30年、ケーキも、料理のソースも全部手作りでやってきたお店なんです。それこそ、こんな郊外の不便な場所でね。値段は安くはない。でも、この店を愛する人は多い。だってここは、憧れの店だから・・・そうですね、京都も、憧れの街でいなくては、いけないと思いますよ」

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» チーズケーキ [これはおいしかったチーズケーキです]
いやー、最高にうまかったですねささやかな、贅沢というか口の中にふんわりと甘酸っぱい味が広まっていくのがたまりませんな 名もなきチーズケーキ チーズスフレ  [続きを読む]

受信: 2005.05.13 00:29

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