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2005.04.29

小説「流れのほとりで」第九回

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 両側を生垣の続く、とても長い参道をゆっくりと登って泉涌寺に着くと、英輔は少し疲れた様子の美沙子に、悪戯っぽく笑って、さらに少し東山に踏み込んだ。
 その小さな塔頭には、思いがけないほど広い庭園があって、うららかな陽光が緋毛氈に射し込む書院で、美沙子は大きく伸びをした。
「こんなに静かで景色の良いお寺を、独り占めできるなんて」
「天気がいいからね。頼んでおいたから、すぐに、お薄が来るよ」
英輔の言葉に、膝を投げ出して座っていた美沙子は、少し慌てて正座した。
 やがて、作務衣を着た老婦人がやってきて、抹茶を点ててくれる。神妙な顔で座っていた英輔は、老婦人が運んできた菓子を見て、目を丸くした。
「これは・・・」
そのとき、美沙子もそれに気付いて、英輔と同時に同じ言葉を発した。
「懐かしい、市田柿」

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 老婦人が驚いて二人の顔を見比べる。英輔と美沙子はもっと衝撃を受けて、見つめ合った。
「この干し柿、たしかに市田柿ゆうて、信州の名産らしゅうおすけど、お二人はそちらの方どすか?」
 老婦人の言葉に頷きながら、美沙子はおずおずと英輔に尋ねる。
「南原さんは、飯田の人なんですか?」
英輔は、干し柿に手を伸ばし、真っ白に粉を吹いているひとつをつまみあげた。
「この柿、おばあちゃが毎年、何百個も皮を剥いて、二階の軒下に吊るしていたよ。あの頃は、日本全国、秋になればどこでもこれを作ってると思っていた。いちだがき、ってブランド名みたいになって、こっちで売られてるのを見たときは、びっくりした・・・」
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