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2005.03.31

小説「流れのほとりで」第五回

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 先に立って歩く英輔の背中に、恩田がぶっきらぼうに声を掛ける。
「しかし、なんだね。町家作りの家なんて、そんなに多いわけじゃないんだ。あの宿は立派なモンだったが」
「どんどん減っていきこそすれ、増えることはありませんからね。元通りの形を保ってる家なんか、貴重品です。ほとんどは、窓をサッシにしたり、土間に床を張ったり、土壁にトタン板を貼ったり、住みやすくして、不細工になってしまってますよ」
「寒いからなあ、京都の冬は・・・確かに底冷えがする・・・まだかい?すぐそこだと言ったじゃないか」
 口を尖らす恩田を、妻が笑った。
「まだ、5分くらいしか歩いてないじゃない。あ、鴨川ね?川沿いの灯りが綺麗」
 四条大橋を渡って、繩手通を北上し、祇園白川に出る。道に設置された白熱電球に似た光を放つ照明が、並ぶお茶屋を映し出す。
「これは・・・実に京都らしいな」
嘆声を上げる恩田の横で、妻が呟く。
「でも、なんだか、映画のセットみたい・・・ここだけこんなに、らしくしてると」
 英輔は、意外な感じがして、恩田の妻を振り返った。

 僅かの徒歩で凍えた恩田は、席に着くなり熱いウーロン茶を求めた。
「僕は酒があまり飲めなくてね。でも、美沙子は日本酒がいいんだろ?」
 すぐに先付(さきづけ)に貝柱の和え物が届き、白川に面した座敷で、川面に踊る灯りを見ながら、三人は食事を楽しんだ。
「奥さん、いい飲みっぷりですね、もう、お代わりを頼まないと」
 味噌仕立ての牡蠣の椀がでて来たときには、最初の銚子が空いてしまっていた。美沙子は生き生きと目を輝かせ、次にやってきた向付(むこうづけ)に箸を付ける。鯛と車海老の刺身が古伊万里の絵皿に盛り付けられている。
「お皿も綺麗だけど、お刺身のツマのセンスがいいわね・・・これ、海草?」
 好奇心と食欲を溢れさせて、なおかつ食べ方の涼やかな恩田の妻=美沙子を見ているうちに、英輔は胸の中がほのぼのと暖かくなってきた。
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