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2005.03.24

小説「流れのほとりで」第四回

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 玄関を上がると古風な帳場があり、その横が応接間になっている。程なく女将に案内されてやってきたのは、四十歳代とおぼしき夫婦だった。きちんとスーツを着た夫は痩せ型でフチのない眼鏡に理知的な光をたたえている。妻は紬の和服姿に艶やかな黒髪が美しい。
「建築設計事務所をやってはる、恩田さんと奥さんや」
沢井はにこやかに恩田と握手し、英輔を見る。
「ほんで、こっちがガイドの南原です。なんでも融通効く男やさかい、思いっきりわがまま言うてくださいよ」
豪放に笑って肩を叩いてくる沢井に合わせて、英輔は微笑した。頭を下げながら、素早く客の二人を観察する。夜の京都を案内するガイド、通り一遍の観光では飽き足らない客を満足させるのが、英輔の役目であった。

 恩田氏は、東京郊外に事務所兼用の自宅を持ち、主に住宅の設計をしている。妻はその事務を手伝いながら趣味の水彩画教室を開いているという。二人とも東京出身で、大学時代に知り合ったそうだ。
 沢井は二人を英輔に引き合わせるとすぐに車で去った。英輔は夫妻を案内して宿を出た。
「お食事は、懐石を予約してあります。すぐそこですから、歩いていきましょう」
「南原さんは、京都弁じゃないんですね?」
恩田が、英輔に尋ねる。
「ええ、京都に来たのは二十歳前で、こっちのアクセントはどうにも身に付きません。変な京都ことばを喋るより、元の言葉を通す方がましだと思ってます」
「そのほうが、私には気楽ですわ。京都の言葉って柔らかくて耳に気持ちよく響くけど、どうもなにを思っているのかわからないところがあるもの」
恩田の妻が笑って言う。夜道でもその笑顔は花のように明るい。
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