« 小説・「残光」第八十八回 | トップページ | 小説「残光」あとがき »

2005.02.10

小説「残光」最終回

saishukai

----------
 健二は、彩夏と肩を並べて、流れる川を見つめた。
 やがて、彩夏はポケットに突っ込んでいた手を動かし、握り締めていたものを取り出す。
 茶色の小さなガラス瓶。
 健二も同じように、右手をポケットから出し、緑の小瓶をかざす。
 どちらからともなく頷いた二人は、小さく言葉を交わした。
「どっちの川を選ぶ?」
「じゃ、うちは賀茂川」「それじゃ、おれは、高野川」
 二人は左右に分かれて、彩夏は三角州の西側を流れる賀茂川に、健二は反対の高野川に歩み寄り、少しだけ流れを遡って、しゃがみこんだ。
 緑の小瓶の蓋をひねり、健二は中身を左の掌にあける。白い粒と細かな灰が掌からこぼれ、川面に散る。沈むことなく浮かんで流れていく、詩織とはるかの遺骨。
 茶色のガラス瓶から、さらさらした白い灰を右の掌に受けた彩夏は、そのまま手を水に漬けた。細く白い手から、雲のように水中に広がっていく、駿の遺灰。
 ひたむきに、壜の中身を掌にあけ、全部を流しきった健二は立ち上がり、流れを追った。彩夏もまた、必死の面持ちで雪のように流れていく灰を追いかけた。
 三角州の先端で、二人はからだをぶつけそうになり、とっさに健二はよろめいた彩夏を抱える。彩夏も健二の胴に、しっかりと腕を回しながら、視線は川面から離れない。
「あ・・・混じり合ってく・・・」
 本当に、そう見えたのだろうか・・・彩夏は泣き笑いの顔でそう呟いているが、健二には、上り行く朝日にきらめく水面で、二つの遺灰がどうなったのか、はっきりは見えなかった。けれども、滔々と流れる鴨川の瀬音と、遥かに続く水脈の豊かさを前に、こみ上げる思いがあった。

 やがて、静かに腕を離し、優しい笑顔で別れを告げる彩夏の顔・・・詩織そっくりだと思っていた彼女の顔は、健二の目にもう、そうは見えない。消えない痛みと、いとおしい思い出を刻んで成長した、他の誰でもない一人の女性の顔である。
 健二も大きく手を振り、雪を踏んで歩き出した。賀茂大橋の上を、雪を蹴散らして市バスが走っていく。
(パンを買って帰ろう、美咲と朝食を食べよう)空になった小瓶をポケットの中で転がしながら、健二はそう思った。最後に鴨川の流れに目をやると、ユリカモメの大群が舞い上がって、流れの果てを隠した。
                                                        (完)

|

« 小説・「残光」第八十八回 | トップページ | 小説「残光」あとがき »

コメント

連載お疲れさまでした。

普段はミステリとSFしか読まない人ですが、
なんとか最後まで読むことができました。

投稿: アクアリウム | 2005.02.12 01:09

アクアリウムさん、ありがとうございます。
実はインフルエンザにやられて、この一週間ほぼ寝込んでおりまして、最終回はなんとか力を振りしぼって書き込みました。
やたら長引いてしまった小説ですが、最後まで付き合ってくださって、心から感謝します。
元気になったら、またあちらでよろしく、です(^^)

投稿: 龍3 | 2005.02.12 02:15

連載お疲れ様でした。はっきり言って最初の方の話は覚えておりませんので、もう一度最初から読み直してから感想はまた別の機会に書かせていただこうかと思います。
しかし、一つの作品を仕上げる大変さは私も実感しておりますので、ラストまでたどり着き、完成させた龍3様に今はただお疲れ様と言いたいです。
インフルエンザ、流行っているようですね。体には気をつけてください。そしてまた、新たなる龍3ワールドを私たちの前に拡げて下さることを願っております。(私の方は沈んだままでなかなか浮かび上がれないでいます)

投稿: miyamo | 2005.02.13 17:23

miyamoさん、ありがとうございます。
インフルエンザはおかげでよくなりました。
ぼちぼち、京都案内の記事なども再開しようと思います。
miyamoさんも、何とか浮かび上がり、闇校舎のほう、頑張ってください。期待しております。

投稿: 龍3 | 2005.02.14 02:01

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/20826/2874307

この記事へのトラックバック一覧です: 小説「残光」最終回:

« 小説・「残光」第八十八回 | トップページ | 小説「残光」あとがき »