« 小説・「残光」第八十七回 | トップページ | 小説「残光」最終回 »

2005.02.10

小説・「残光」第八十八回

yukinodaimonji

----------
 その朝、京都の街はうっすらと雪に覆われていた。
 (約束の日が来た)と、健二は胸の中で呟くと、まどろむ美咲を起こさないように、そっとワークブーツを履いた。
 その場所まで、かなりの距離があるが、歩いていくつもりだった。
 僅かの雪でも道は、まばゆく輝き、清浄な世界が現れたように感じる。つかの間の幻想に過ぎなくても、この朝はそうあってほしかった。
 約束したもう一人も、きっと、歩いて向かっていると、健二は確信していた。

 鴨川のほとりに出て、ひたすらにその左岸を北上する。右手に、白く火床を浮き上がらせた大文字が見えてくると、目的地は目の前にあった。
 今出川通りの賀茂大橋をくぐり、出町柳駅前で川端通に上がると、河合橋を西へ渡る。右手には下鴨神社の糺の森、そして、左に続く公園は、通称出町の三角州。
 高野川と賀茂川が賀茂大橋の直前で合流すると、鴨川となる。その流れをはるか南に望みながら、鋭く尖る三角の突端に、健二は歩いていった。まだ、誰も踏んでいない白い雪・・・しかし、ひとつだけ小さな足跡が続いていて、渚には、孤影がたたずんでいる。
「待ったか?」
健二が声を掛けると、人影は軽く肩をゆすって振り向き、明るく応えた。
「ううん、うちもさっき来たトコや」
コートの衿に埋まった少女の頬は赤く染まり、白い息を弾ませる。彩夏だった。
----------

☆思いのほか長く連載してきましたが、次回は最終回です。

|

« 小説・「残光」第八十七回 | トップページ | 小説「残光」最終回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/20826/2868648

この記事へのトラックバック一覧です: 小説・「残光」第八十八回:

« 小説・「残光」第八十七回 | トップページ | 小説「残光」最終回 »