小説・「残光」第八十八回
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その朝、京都の街はうっすらと雪に覆われていた。
(約束の日が来た)と、健二は胸の中で呟くと、まどろむ美咲を起こさないように、そっとワークブーツを履いた。
その場所まで、かなりの距離があるが、歩いていくつもりだった。
僅かの雪でも道は、まばゆく輝き、清浄な世界が現れたように感じる。つかの間の幻想に過ぎなくても、この朝はそうあってほしかった。
約束したもう一人も、きっと、歩いて向かっていると、健二は確信していた。
鴨川のほとりに出て、ひたすらにその左岸を北上する。右手に、白く火床を浮き上がらせた大文字が見えてくると、目的地は目の前にあった。
今出川通りの賀茂大橋をくぐり、出町柳駅前で川端通に上がると、河合橋を西へ渡る。右手には下鴨神社の糺の森、そして、左に続く公園は、通称出町の三角州。
高野川と賀茂川が賀茂大橋の直前で合流すると、鴨川となる。その流れをはるか南に望みながら、鋭く尖る三角の突端に、健二は歩いていった。まだ、誰も踏んでいない白い雪・・・しかし、ひとつだけ小さな足跡が続いていて、渚には、孤影がたたずんでいる。
「待ったか?」
健二が声を掛けると、人影は軽く肩をゆすって振り向き、明るく応えた。
「ううん、うちもさっき来たトコや」
コートの衿に埋まった少女の頬は赤く染まり、白い息を弾ませる。彩夏だった。
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☆思いのほか長く連載してきましたが、次回は最終回です。
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