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2005.02.04

小説・「残光」第八十七回

tadorituku

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  木枯らしの中、健二はコートのポケットに手を突っ込んで家路を急ぐ。やがて見えてきた家の明かりに、健二の顔がほころぶ。
「目立つなあ、タンタの影は」
 町家というには安っぽい造りの長屋の一軒。玄関の脇の小窓に、でかでかと映し出された猫の影が、みぎゃあ、と健二を迎えた。上りがまちにスーパーの買い物袋を置くと、足にまとわりつくオス猫・タンタを抱き上げて、健二は苦笑する。
「おまえもおれも、美咲に拾ってもらった同志だ、しゃんと頑張ろうぜ、愛想つかされないようにな」
部屋の奥から、美咲の声が呼ぶ。
「ねえ、はよ見て、こたつ、出したんよ」
 もうそんな季節になったかと、健二は感慨を覚える。

 駿の葬儀を終えた夜、健二は美咲の家に来た。
 朝まで、美咲を抱きしめていた。
 その日から、美咲の家が健二の住処になった。

 炬燵の上に乗せた携帯コンロで湯豆腐を食べながら、美咲は健二に葉書を差し出した。塩澤真那からの転居通知だった。
「そうか・・・引っ越すのか?」
 駿の遺骨を抱えて東京に戻った真那は、駿と暮らしたマンションを売って、郊外の小さな家を買ったと告げてきた。
「結局、彩夏と真那さん、二人で駿さんをみとらはったねえ・・・喧嘩もせんと、不思議に仲良う・・・」
「不思議、に見えたか?でもな、彩夏は、駿にとっちゃ、娘みたいなもんだったからな」
「そやろか?ほんまのとこは、本人たちにしかわからへんと思うよ」
そういって、少し寂しげに微笑した美咲は、違う話を思い出したらしく表情を改める。
「そういや、彩夏に昼間会うたとき、伝言頼まれてたんや」
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