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2005.02.03

小説・「残光」第八十六回

gannkeiji_003

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 車窓を流れていく景色を、駿はいとおしんで眺め、懐かしい場所に通りかかると必ず声を上げた。
「あそこの喫茶店、オープンカフェに改装したんだね!よく漫画読んで何時間もだべったんだ・・・」
「あの古本屋は・・・百円パーキングになってしまったのか」
「日仏会館!張り切ってフランス映画見に行ったけど、字幕がついてなくて全然筋がわからなかったよ」
 相槌を打つ竜生の頬に、涙が流れているのを、健二はバックミラーで見つける。
 熟睡している真那の肩を支えてやりながら、健二は精一杯明るく、乱暴に駿に応えた。
「なんだ、京都で暮らしてるのに、出歩きもせずにいたのか?今度、おれが引っ張りまわしてやるよ。うん、へたばるまで、懐かしい店を案内してやる!」
 楠本蝶類研究所の跡地に近づいたとき、駿は、変わらぬ朗らかな声で告げた。
「わるいな、竜生、あそこ行くの、次にとっておきたくなった・・・僕が退院して・・・・そうだよ、景子も真那もちゃんと起きているときに、みんなで、明るい日差しの下で、行きたい」
「そうだな!」「そやな!」
竜生と健二が同時に答え、車は夜の都大路を走りぬけた。

 二週間後、塩澤駿は、入院先の病院で死んだ。

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コメント

掲載許可ありがとうございます。さっそく登録とともにトラバ送らせていただきました。
京都は馴染みの土地で、小説を彩る写真を逐一嬉しく眺めておりました。さて、86回まで一息に拝読させていただきましたが、お話は佳境を過ぎ、終幕に向けての疾走というところでしょうか。続きを楽しみにしたいと思います。

それでは今後とも宜しくお願いいたします。

投稿: 甲斐ミサキ | 2005.02.03 16:31

甲斐ミサキさん、ありがとうございます。
一息に読んでくださったとのことで、作者としては嬉しい限りです。
物語は、あと僅かで閉じます。
写真と合体させて語らせるという、わしとしては初めての試みでしたが、創っていてとても刺激的で楽しかった・・・

こちらこそ、今後もよろしくお願いします。

投稿: 龍3 | 2005.02.03 23:31

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