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2005.01.30

小説・「残光」第八十二回

saigosinpan

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 異様な緊張が走り、健二が竜生に向かって足を踏み出す。竜生が激しく叫んだ。
「健二、動くんやないで!一階にな、仕掛けがしてあるんや。おれが、この部屋の鍵を掛けて、下へ降りたら、ガソリンのポリタンク、蹴倒して、このライターで火を点ける。よう乾燥しとるしな、火の手が回るんは、あっちゅう間や」
 竜生の手には、真鍮の鍵とジッポーが握られていた。景子が静かに言った。
「みんなを眠らせておいて・・・うちも一緒にして、全部焼いてしまうつもりやったん?一人だけ、逃げて・・・」
竜生は汗のしずくにまみれた顔を、横に振る。
「おれらが書き直した遺書を、健二や駿や真那がそのまんま、納得したら、おれもワイン飲んで、みんなで一晩過ごして、そのまんま、明日を迎えるつもりやった・・・けど、あかんかったな。景子・・・お前が、お芝居につきあいきれへんで、ほんまのことを、ばらしてしもうて、わやになってしもたら、全部終りにするつもりやった。そんときは、おれも一緒に火の中に消えよ、おもてた。」
 竜生は言葉を切り、微かに笑った。
「そやけど、それもあかんかったな・・・おれは景子のために全部やってきたのに、景子がほんまに好きやったんは、詩織やったなんて、もう、おれには何にもあらへん。死ぬ理由さえもあらへんわ!ほんま・・・二十年も、なにをあほなことやってきたんやろ!もう、ええわ、なんもかも!」
 竜生の全身が震え、一気に振り向いてドアに走った。健二がダッシュした。蒼白な顔で、駿が何かを叫ぼうとした。竜生の手がドアに掛かり、力いっぱい開く。健二は、間に合いそうもない。
 だがその瞬間、竜生が凍りついた。言葉にならない絶叫が竜生の口から噴き上がり、彼の身体はよろめいて後退し、部屋の中にあとじさってきた。
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