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2005.01.18

小説・「残光」第七十七回

ranun

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 竜生が立ち上がり、部屋のドアの前まで歩いて、こちらに向き直る。無表情だった景子が顔色を変えて、健二に叫んだ。
「あほなこと言わんといて! あの男は、名字かて竜生と違うたし、年かて、二十くらいも上やったで!兄弟やなんて、嘘や!」
 健二は、景子と竜生を交互に見ながら、上着のポケットから分厚い書類の束を抜き出し、テーブルに投げる。
「DNA鑑定書と、竜生の身辺調査報告書だよ。詩織がいなくなってすぐに、こういうことをやってなきゃいけなかったんだ、俺は。なんて馬鹿だったのかな」
 駿が書類を拾い上げ、ページをめくる。素早く書面に目を走らせ、愕然とした表情になる。景子は座ったまま、テーブルを拳で叩いた。
「竜生、うちにも、隠してたんか!なんで、なんでやの?!」
 ドアに寄りかかり、天井を仰いでいた竜生が、ゆっくりと視線をおろし、景子に微笑した。
「マジで、好きやったからや・・・景子を」
 明らかに変化した竜生の口調に、部屋は静まり返る。
「しょうもない親父やってん・・・おれの父親はなあ・・・西陣の帯問屋の三代目、遊び倒して店潰しよってん。そうや、メフィストフェレスは、おれの腹違いの兄貴や、十八も年上や。上七軒の芸妓に、まだ二十歳くらいの親父が産ませたんや」
竜生は、拳を握り締め、仁王立ちになって叫んだ。
「おれ、知らへんかってん!なんにも、知らへんかったんや!あの兄貴には、会った事もなかったんや!おれは、ただの学生で、春川先生を尊敬してた。健二が、何にも知らんと、詩織を好きになったみたいに、おれは、景子を好きになったんや!」
竜生は口から唾を飛ばし、目を据えて咆える。
「詩織のことかて、健二と同じで裏の事情なんて、全然知らずにいたんや。ずっと、春川先生の下で院生やって、景子とつきおうて、婚約した。けど、先生は、結婚を許してくれへんかった。おれは、土下座して結婚させてくださいて、頼んだのやで!」
嵐のように喚いていた竜生の顔が歪み、唇を噛む。
「そのとき、春川先生が、冷たく言うたんや。『汚らわしいメフィストフェレスの弟と、縁を結びたない』ってな」
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