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2004.12.27

小説・「残光」第七十四回

akaihi

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 真那の朗読が途切れ、彼女を含めて全員が、景子に視線を向けた。景子は静かな表情をしていた。
「続けて、真那。最後までパパの遺書を、読んで。それから、言うべきこと言うし」
 健二が口を挟む。
「景子が、この前の宵山に俺に言った事と、遺書の内容に違いが出てきたぞ。どっちが、ほんとうなんだ、景子?」
「だからそれ、あとで言うし、今は待ってや」
あくまで平然としている景子に促され、真那は再び、遺書に向かう。

「詩織は産んだ子に、はるか、と名づけた。私は、その成長した姿を観る事が出来なかった。一九九五年一月十七日、詩織とはるかは大震災の犠牲者となった。倒壊した家の下敷きとなり、そして火災によって焼かれて、遺骨となって発見されたそうだ。
はるかが、私の子であったかどうか、確かめることのないままに、彼女たちは短い生を終えてしまった。二人に、そんな人生を強いた責任の大部分は、私にある。
その罪の報いというべきだろうか・・・フランスやイタリアで暮らし続ける景子の生活が無軌道になっていったのは。詩織のことを、景子とまともに語り合ったことはない。お互いに避けてきた。あまりに衝撃が強かったからか、景子は私に切りかかったことを覚えていないようだ。だが、深層の記憶に、詩織を刺したことが刻まれていて、景子を苦悩させているようだと、やがて私は気付いた。
景子は薬物に溺れて、どうにもならなくなっている。
私が出来ることは、詩織とはるかに対する、我が罪を認めてひれ伏し、景子の更生のために、君たちに力を貸して欲しいと、希うことしかない。
とりわけて、柳田君。
君には、取り返しの付かないことをしたと思う。君が若者らしい純な愛情を詩織に注いだことは、知っていた。詩織もまた、君を愛していた。言葉少ない彼女だったが、君と過ごす時間こそ、彼女にとって何ものにも代えることの出来ない、青春、だったと思う。
そんな君たちを、無残に引き裂いたのは私だ。傷ついた詩織を、君から引き離し、神戸に送った。実行したのはメフィストフェレスたちであり、彼等の提言に、私が頷いた形だったが、まぎれもなくそれが、私の保身のための悪行だったのは、言い逃れできない。

これがすべての真相である。
重ねて言う。私の罪は許されることはないだろう。
だが、伏して乞いねがう。景子を救ってくれたまえ。
そのために、私の遺産はすべて使ってくれてかまわない。
既に、溝口君に、財産譲渡の手続きを済ませている。
汚れた私の財産だが、それをもってしか、誠意を表すすべを知らないのである。」

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