小説・「残光」第七十三回
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真那は、駿に見向きもせず、執り憑かれたように読み続ける。
「事は、汚れた思惑の通りに進んだ。純朴だった学生の君たちは、詩織の身分詐称の衝撃から、たやすく彼女の犯行を認めていった。その間、詩織には、代償として私もメフィストフェレスも様々な甘言を囁いた。
だが、予想外のことに、彼女はそれに従わなかったのだ。
あの、祇園祭の宵山に、詩織は私の家にやってきた。アルバイト仲間に真実を告げると言った。私は驚愕し、彼女を責め、脅し、ついに懇願した。そんなことをしたら、私は破滅し、留学の決まった景子の将来も暗黒になると。
そのときだ、景子が果物ナイフを手に、突然部屋に入ってきたのは。
話の断片を立ち聞きし、景子は錯乱していた。
景子は、怒りのあまり、私を刺そうとしたのだ。
混乱の中で、そのナイフが、詩織の浴衣の背中に突き立った。
私は、救急車を呼ばなかった。応急処置をして、幼馴染の経営する個人病院に、詩織を運んだのだ。
詩織は重症だったが、命はとりとめ、二ヵ月後には退院した。
だが・・・病院で、彼女が妊娠していることがわかった。
その子供の父親の名前を、詩織はついに、言わなかった。
私は、せめてもの責任を果たそうと、彼女の言うがまま、神戸に彼女の家を借り、住まわせた。
傷が癒え、やがて翌年、詩織は女の子を産んだ。
そして、彼女は私の送金を拒んだ。一人で、子供を育て、生活していった。
私は・・・以来、なにもしなかった。
メフィストフェレスは、詩織のことを知っているようだったが、やはり何も言わず、やがて彼との交際も立ち消えた。
消せない傷だけが、詩織と、私と、景子に残った」
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