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2004.12.17

小説・「残光」第七十一回

genei

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「私が詩織と出会ったのは、今はない会員制クラブだった。お茶屋などに代表される、花街の表からかけ離れた、夜の底とも言うべき、暗い裏の世界。店の名は『S』としておこう。清楚な装いをした魔窟とでも言えばよかっただろうか。そこにいたホステスたちはあまりに若く、稚く、純潔であり、そして、店は背徳に染まっていた。客は飲んで騒いだ果てに、ゲームで彼女たちの『水揚げ』権を競うのだった。今にして思えば、私があの店に連れて行かれたときのゲームは、仕組まれた罠で、まだ悪に染まっていない私と、処女だった詩織を、もろともに地獄に引きずり込むための出来レースだったのである。
 小心な私は、逃げようと思った。だが、私をあの店に連れて行ったメフィストフェレスとも言うべき、あの男はそれを許さず、私は、詩織とホテルに行ったのである。」
 真那は、脂汗を浮かべ、絶句した。テーブルに置いたワイングラスをつかんで一口のどに流し込んだ。そして、歯を食いしばると、遺書の続きに戻る。
「詩織は寡黙な少女で、ほとんど会話を交わさなかった。私は、酔った挙句の一夜の夢にしたつもりだった。メフィストフェレスはその後も私に付きまとい、私も夜の遊びを続けたが、もう『S』へは行くまいと思った。けれど、月に一度は、顔を出すのが『水揚げ』をした者のルールだと言うのである。私はそのたびに詩織と会い、店の者からは彼女の『旦那』と呼ばれた。詩織との逢瀬に、ときめきがなかったといえば嘘になる。だが、『S』からの請求書は次第に過大な額になり、私は奈落に堕ちていく気分になった。そんなときだ、楠本蝶類研究所の解体が決定し、私がその責任者になったのは」

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