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2004.12.05

小説「残光」第六十九回

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 健二は、景子の瞳を見据えながら、持っていたグラスをゆっくりテーブルに置く。
「無粋は承知で言うんだが、酒を飲む前に、やるべきことをやって欲しいんだよ、竜生」
 ワインに口を付けかけていた竜生は唇を曲げて健二を見る。
「なんで、そないに、急(せ)くねん?」
「うちの用意したお酒やから、信用でけへん、いうわけ?」
景子の顔に、興奮した色が現れ、その眼光は健二を貫かんばかりだ。
 健二は、深く息をつき、首を横に振る。
「いや、景子がせっかくフランスから持ってきた、いい酒なんだろ?気持ちよく飲みたいんだ。俺はまだ、春川先生にも、詩織にも、心の底から鎮魂の挨拶が出来ない。本当のことを知ってから、杯を捧げたいんだよ」
 竜生は、頷いてグラスをテーブルに戻した。
「健二の言うことはもっともや。ほな、春川先生の遺書を、公表するで。みんな、座ってくれや」

 窓はすべて開け放たれていて、かなり涼やかな風が入ってくる。エアコンはなく、天井でゆるやかに大きな扇風機が回っている。そのモーターの微かな音が聞こえるほど、室内は静まり返っていた。
 景子の隣に竜生が座して、提げてきた革の鞄から、封書を取り出す。竜生の反対側に真那が、竜生に並んで駿が座り、景子の正面に健二がいる。
 遺書に蝋で封印がしてあるのを、竜生は示した。真鍮のペーパーナイフを使って封筒を開いた。
「さて、どないしよ。回し読み、いうのも、かったるいしな」
竜生が呟くと、景子がきっぱりと言った。
「真那、あんたが読んでくれへん?学生の頃、サークルで子供に絵本の読み聞かせ、やってたやん」
真那は少したじろいだが、健二が強く頷いたのを見て、遺書を手に取った。
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