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2004.11.10

小説「残光」第五十九回

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 ことさらに無機的なビルのロビーで、その人物は待っていた。
「約束の時間通りだすな。ほな、お渡ししまひょか」
物柔らかな言葉を紡ぎだす男は、細身の体躯にアルマーニのスーツを着て、喋り方にふさわしい優しい容貌をした四十歳くらいの年恰好である。
「今、ここで開けていいですか?」
手渡された大判の封筒を手に、健二は鋭い目つきで訊ねた。男は軽く笑って、ロビーの隅のソファを示す。
「そらもう、よろしいで。どうぞ、ごゆっくり検分しとくれやす」
革のソファに腰を落とし、貪るように健二は封筒の中の書類を読んだ。読み終えて、歯を食いしばり、しばらく耐える。
 男は少し離れて、煙草をふかしながら、ガラス越しに宵闇の空を見上げている。
「結構です。これだけきちんと結果を出してくれたら、十分です」
健二は懐から、茶封筒を取り出し、男に差し出す。男は真面目な顔で受け取り、上目遣いに言う。
「領収書、いりまっか?」
健二は首を横に振った。男は頷くと、握手を求めた。戸惑う健二に、男は笑う。
「わての、流儀でんねん。依頼人とは最後に、心込めて握手して、それで全部忘れます」
健二は立って、男の手を握った。白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべ、男は立ち去った。

 京都に戻る新快速電車の中で、健二は目を閉じ、呪文のように胸の中で唱える。
(検体をDNA鑑定した結果、サンプルAとは、98.7パーセントの確率で親子と認める)
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