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2004.11.06

小説「残光」第五十八回

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「確かに、あの頃のうっとこのお客はんに、その先生はいはりましたえ。祇園の遊びを覚えて間もない、いう感じのお人やった」
「それで、その頃、お店に、この女の子はいましたか?」
 健二は、一枚の古い写真を差し出した。老女はバッグから眼鏡を取り出し、しげしげと見つめた。
「うちも、もうええ歳やし。ようけ女の子は出たり入ったりしましたしなあ・・・」
「十八歳未満だったんですよね、その当時、この子は。それを承知で・・・というより、あなたのお店は、密かにそれを売り物にしていたんじゃないですか。まあ、そんなことはもう、とっくに時効ですけどね」
 老女は黙りこくり、写真を卓の上に投げ捨てるように置いた。
「俺はね、その子がどこへ消えたか、知りたいだけなんです。その子と、春川教授の繋がりがないか探したら、あなたが昔経営していた店が出てきた」
「はん、えらいご執心だったんどすな」
からかうように、老女は目を逸らしてうそぶく。
「お願いしますよ、この子と春川教授は、面識があったんですね?」
「そないなこと、いまさら聞かはってもなんにもならしまへんやろに」
へらへらした口調で喋る老女に、健二はぐい、と顔を突き出した。
「水揚げ、という言葉がありますよね。舞妓が、一本立ちして芸妓になるとき、旦那が付くことだ。でももっと直截には、舞妓が初めて男に抱かれること。ねえ、俺は『よそさん』だから、回りくどい話は苦手だ。あんたの店は、十代の女の子に、水揚げさせることで、稼ぎをあげてた」
健二は写真を拾い上げ、老女に突きつけた。
「この子を水揚げしたのは、春川先生だった・・・違いますか?」
老女は、不意にニタリ、と笑った。般若のように凄惨な笑みだった。

 京都駅前の雑踏のなか、健二は夕空の京都タワーを見上げる。幻想的にそそりたつ姿に、唾を吐きかけたくなる気分を覚えて、挑むようにしばし立ち尽くした。
 やがて、荒々しく肩をゆすって横断歩道を渡った健二は、駅構内に踏み込んでいく。そして大阪行き新快速電車の切符を買った。
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