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2004.11.04

小説「残光」第五十六回

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 健二は目を上げて、美咲の視線をまっすぐに受け止めた。
「待ってて、くれるか?」
「うん」
「終わらせるまで、待っててくれるか?」
「うん!」
 健二は手にしていたロックグラスを置き、立ち上がって手を差し出した。
「出ようか」
「うん!」
美咲は舞い立つように立ち、健二と手を繋いだ。

 七月の熱い夜気の中を、二人は歩く。握り締めた掌の温かさが、健二にはこの上なく大切なものに思える。
「美咲の家は、どこだ?そこまで、歩いて送って行きたい」
健二の昂ぶった声に、美咲は小さく笑う。
「だめ。うっとこまで連れて行ったら、うち、きっと、健二に上がるように言うてしまうから。終わるまで、待たなあかんやろ」
「そうだったな」
健二は苦笑し、強く握った手を、軽く握りなおす。曇り空で星は見えない。街路の明かりが火照った二人の頬を照らす。
「けど、まだわからない。なんでおれなんかを・・・」
「理屈やあらへん。でも、説明してみよかな・・・健二は、ナウシカって、知ってる?」
「宮崎駿の、アニメだろ。好きだよ、封切りのときに見たさ」
「その宮崎さんが、漫画でもナウシカ、書いてはって、その単行本のあとがきに、書いてあってん。
ナウシカは、もともとギリシャ神話に出てくる王女で、海辺にぼろぼろになってたどり着いたオデュッセウスいう、英雄を助けたんや。彼女は、不吉な血まみれの男の中に、光りかがやくなにかを見い出した・・・って」☆注
 美咲は歌うように語り続ける。
「うちは、そんなナウシカになりたい、思うた。合コンで、相手に職業と年収を聞いて回るような女には絶対なりとうなかった。たとえ、一生オデュッセウスにめぐり合えなくてもええ。ナウシカでいたいと思ってきた」
 健二は驚いて美咲を見返す。美咲は微笑している。
「二十年も一人の人を想い続けて、その人が死んだことを知って、ぐしゃぐしゃに泣いてた男が、うちのオデュッセウスや。不吉な血まみれの男、やのうて、不細工な涙まみれの男、やったけど」
「光りかがやくなにか・・・を見い出したってか」
 途方にくれたように首をかしげた健二に、美咲は明るく笑って、強く手を握った。
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☆注・・・徳間書店刊 アニメージュ増刊「風の谷のナウシカ」第一巻 宮崎駿著 あとがき「ナウシカのこと」より

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