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2004.11.25

小説「残光」第六十七回

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 微かな残光を浴びて、山塊の前に浮かび上がるのは、板を外壁に張った、古い小学校の校舎に似たシルエット。健二と駿、真那は、言葉もなく立ちすくむ。あの夏、六人で過ごし、夏の終わりと共に潰え去った、忘れることの出来ないかたちが、突如眼前に蘇ったのである。
「ふふ、驚いたやろ。これ、あの研究所とほぼ同時期に建てられたんやそうな。多分、設計・施工した業者は一緒やと思う。双子の建物の生き残り、言うところやろな」
いたずらっぽく笑う竜生の言葉に、興奮した駿の声が重なる。
「すごい!よく、よく残ってたね。よく見つけたね!ああ、窓の形も、玄関も、まるで同じだ。幻を見ているようだよ」
 我を忘れ、駿は建物の玄関に駆け寄っていく。戸惑い気味に、真那が続いた。扉のガラスに滲むオレンジ色の灯に吸い寄せられるように、駿は迷うことなくその光の中に踏み込んでいった。
「これは、何のつもりなんだ?」
 真那のスーツケースを下げて歩いていく竜生の背中に、健二は鋭く問いかける。振り向いた竜生の顔は逆光で表情が読めない。
「とにかく、入れや、健二。ゆっくり喋ろうや」
竜生は少し笑ったようだったが、そのまま建物に踏み込んでいく。舌打ちして、健二は三人の後を追って、低い石垣に刻まれている石段を駆け上がった。
(そっくりだ、気味が悪いくらい、同じだ)
 うそ寒い感覚を覚えた健二だが、扉の形、玄関から階段に続く石造りの床、漆喰塗りの内壁と黒ずんだ腰板などに目を移していくに連れ、圧倒的な郷愁が沸き起こってくるのを押さえ切れなかった。
(あの、磨り減った階段の手すりにもたれて、詩織がこっちに笑いかけて来そうだ)
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