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2004.11.03

小説「残光」第五十五回

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「どういうこと?詩織さん、生きてはるってことなん?」
「それは、たぶん、ない。ただ、死んだ理由と場所が、はっきりしないんだ」
「はっきりさせる、つもりなの?」
「そうしないと、終わらないよ」
ビールを焼酎のロックに替えて、健二はグラスをあおる。美咲は、強い視線で健二を見た。
「今までずっと、はっきりさせずにきたんやろ?終わらせへんために」
 健二はごくり、と唾を飲んで美咲を見返した。
「そう、かもしれないな・・・いや、きっとそうなんだろうな」
 美咲は、じっと健二を見詰めたまま、低く呟いた。
「終わらせて。きっと、終わらせるって約束してくれへん?」
「約束・・・?」
戸惑う健二に、美咲ははっきりと頷いた。
「うちと、約束してもらえへんやろか?」
 なぜ、と問いかけようとして、健二は口をつぐんだ。胸の動悸が高まっていた。
 からだの芯で凍り付いていた何か大きな塊が、一気に溶けていくような感覚に、健二は痺れている。
「俺なんかに、そんな資格があるのかな?」
呻き声で漏らした健二の言葉に、美咲の囁きがかぶさる。
「あんたを縛ってたものから、楽になって欲しいねん。二十年も同じ人を想ってたあんたは、もう、十分に尽くしたんや。でもそのせいで、あんたは抜け殻みたいになってる。ほんまのあんたになって欲しい」
そして、美咲は、緊張で声を震わせながら言った。
「うちの、ために、約束して」
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