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2004.11.16

小説「残光」第六十二回

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 春川教授が臨終を迎えたのは、お盆の少し前だった。
 教授の夫人は数年前に逝き、一人娘の景子は「入院中」。日ごろはほとんど縁遠いらしい親族が少数集まって看取るなか、葬儀の手筈などを中心になって進めているのは竜生である。
 健二と駿は、廊下に出て、窓の外を眺めた。無残なくらい古ぼけた旧病棟と、新築されたばかりの病棟との間に、焼却炉らしい巨大な煙突が立ち、気のめいるだけの風景だ。
「真那に連絡したか?」
健二が訊ねると、駿はかぶりを振る。
「君がしたほうがいいよ」
 顔をしかめ、健二は公衆電話に歩いていく。ふと振り返って駿に言う。
「真那とは、きちんと話した方がいいぞ。おまえが、病気とまともに向かい合うつもりならな」
駿は口をつぐんだままだが、かすかに、頷いたようだった。

 その晩の通夜、翌日の葬儀ともに、街中の葬儀会社の建物で行われて、形どおりに進行した。大学関係者、教え子たちもかなり参列したが、式が済むと未練もなく人々は散った。
 遺骨を教授の自宅に運ぼうとしている竜生に、健二は歩み寄る。
「さあ、教授の遺言の公表は、どこでするんだ?俺たちも教授の家に行けばいいのか?」
「ご親族がまだいはるさかい、そないなこと、大声で言うたらあかんがな」
叱責する竜生は、しかしすぐに小声で伝える。
「後始末が終わったら、連絡するし、携帯の通じるトコにいてくれや。今、午後四時やし・・・六時には電話する」
 黒塗りのハイヤーに乗って去った竜生を見送ると、健二は駿と真那を振り返る。着替えて軽く食事しながら連絡を待とうと相談が決まった。
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