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2004.11.13

小説「残光」第六十一回

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 祇園を流れる白川には、緑の柳が枝を垂れ、水底には小魚が群れて、暑熱の中も涼やかである。
 巽橋の欄干に寄りかかり、健二はしばし、憩った。いつも、時が止まっているように感じられるこの界隈・・・お茶屋遊びなどには縁のなかった健二にも、仲間と飲み歩いたり、そして、詩織と寄り添って散策したりした想い出が蘇る。
 これまでは、できるだけ、振り返らないようにしていた、と健二は思う。ことさらに、目の前の些細な事にだけ集中して、あの頃のこと、詩織のことを、まともに思い出さないようにしていた、と。
 今は、甘美な記憶でなく、非情な真実をあばくため、健二は突き進んでいる。
(けど、苦しいな。・・・美咲の声が、聞きたくなる)
 何度か、携帯電話を取り出し、掌でもてあそびながら、健二はかけることなく、またポケットに戻す。
 日傘を差して、普段着の和服を着た舞妓が通り過ぎた。
(あの頃の詩織や、今の彩夏と同じくらいの歳だな・・・)
 素顔に近い舞妓は、幼ささえ感じる顔立ちで、健二にはその足取りもどこか危なっかしく思えた。
(あの子や、彩夏は、精一杯背伸びして頑張ってるのだろうな・・・詩織は、どんな気持ちであの日々を送っていたんだろうか)
 石畳の上に陽炎が立つ。その中に揺らめいて遠ざかっていく舞妓の後姿を、健二はしばし見送った。橋下の水面に魚が跳ねて、小さな音が響く。
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