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2004.11.12

小説「残光」第六十回

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 梅雨は明けたかに思われて、炎熱の下で京都の町はあえいでいる。
 健二は、駿が彩夏と暮らす家を訪ねる。石畳に水が打たれて、路地(ろうじ)は辛うじて息がつける。
「そうか、彼女が詩織の娘じゃないことも、お前の病気のことも、お互い話したのか・・・」
駿が注いでくれた麦茶を啜り、健二は頷く。
「なんかね・・・日常の生活を、ずっと続けていくには、かっこつけていては、いられないね」
駿は、色白の顔にうぶな笑いを浮かべた。
「怖くなったんだよね。春川先生の姿を見ていたら・・・」
 健二は部屋を見回し、箪笥の上に置かれた薬袋や、カレンダーに書き込まれた「検査」という文字を見ながら、訊ねた。
「彩夏ちゃんは、今は仕事か?」
「ああ、あのスーパー、24時間営業になってね。シフトがコロコロ変わって、かなりきつそうなんだ」
 健二は、麦茶のコップをテーブルに置き、無表情に一気に喋る。
「春川先生は、昨日から危篤だ。竜生から連絡は来たか?」
 驚いた表情になり、駿は眼鏡の奥でまじまじと目を見張る。
「いや、何も言ってこないよ」
「そうか・・・それともうひとつ、気になることがある。景子がこっそり退院してる」
「ええ?・・・麻薬中毒、そんなに早く治るのかい?」
 健二は苦笑し、すぐにシニカルな表情になる。
「治るわけないさ。竜生が、身元を引き受けて、表向きは個人病院に転院させたことになってる。でも景子は、ホテル暮らしに戻ってるよ」
 駿は、汗で顔から滑る眼鏡をつかみ、激しく瞬きをする。
「健二、君は・・・」
「竜生は、春川先生の遺言を、もう、読んでいるはずだ。俺があいつだったら、ぜったいそうするさ。あいつに出し抜かれちゃならない。竜生から連絡があったら、すぐに俺に知らせてくれよ」
 駿は、やりきれないような表情になって呟いた。
「いったい、どうなってしまうんだ、僕たちは・・・黄金の六人、だったのに!」
「終わらせるんだよ。俺たちの青春に、けりをつけるんだよ」
 きっぱり言い放ち、健二は駿の家を出る。油蝉の鳴き声が、陽光の中に満ちている。
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