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2004.11.02

小説「残光」第五十四回

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 よく冷房の効いた地下の小料理屋で、刺身や佃煮を肴に、美咲は旨そうにビールジョッキを空けた。花屋の駐車場に車を置き、店に帰って着替えて、徒歩で健二をここまで連れてきたのである。小気味良い飲みっぷりに釣られて、健二もジョッキを傾けた。酔いが、からだの深いところから疲れをほぐしてくれるのを感じる。
「彩夏・・・宵山は楽しかったみたいやな。あんたが、写真撮ってくれたって、言うてた」
「ああ、引っ張りまわしてくれたよ。元気だなあの子は。駿は・・・そういや、さっきもかなり疲れた顔だったな」
「それは・・・お見舞いに行った人って、重い病気やったん?」
「まあな。ここ一ヶ月くらい意識がないって聞いた」
健二の言葉に、美咲は眉をしかめ、口をへの字に曲げた。
「駿さんも、病気やんか。自分が重態になったときのことを想像して、気分重うなってたんちがう?」
 健二はちょっと驚いて、美咲の顔を見つめた。
「しまったな・・・俺は、自分の思いにかまけてて、そんなことに気が回らなかったよ」
「あかんやん、親友なんやろ?なんかまたあったん?こないだみたいに、思いつめた顔してはったから、一杯やったほうがええ思うて、誘ったんやけど」
 健二は美咲の言葉が、胸に沁みるように思った。
「・・・彩夏に、詩織のことを聞いて、もう、全部終わったと思ったんだがな・・・」
カウンターに肘を突いて、掌にあごを乗せ、健二は呟く。
「わけがわからなくなってきたんだ」
 小首をかしげ、健二の声に耳を傾ける美咲の顔。健二の目に、店の間接照明に浮かぶ美咲の顔が、菩薩のように清楚で慈愛に満ちて映っている。
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