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2004.11.30

巨樹8・西本願寺の大イチョウ

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これは、イチョウの樹が並んでいるのではない。一本のイチョウなのである!
京都市下京区堀川七条上ル西側に、広大な寺域を誇る、西本願寺。その中心をなす御影堂(ごえいどう)の前にある、著名な巨樹である。
1788年=天明8年の大火のおり、この樹から水柱が噴き上がり、御影堂を守ったという伝説を持つ。樹高は12メートルほどだが、枝張りは東西23メートル、南北26メートルにわたる堂々たるもの(1984年の調査)。
御影堂は現在「平成の大修復」中であり、巨大な仮設屋根で覆われている。大イチョウもその仮設屋根を支える鉄骨で囲われてしまっているのだが、「大イチョウの上は雨水を取り込めるように空けてあります。さらに、夏に鉄骨が暑くなり、その放射熱でイチョウに悪影響を与えないように、鉄骨には断熱材が塗布されています」(本願寺グラフより)とのことだ。
そういうわけで、工事のフェンスにさえぎられ、残念ながら大イチョウの側には寄ることが出来ない。鉄骨の下で窮屈そうにも見える。それでも、大きな教団の本拠地で、篤い信仰の象徴のようにそびえるこの樹には、やはり圧倒されるものを覚えるのだ。

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2004.11.29

植物園

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京都府立植物園も、目の覚めるような紅葉に埋め尽くされていました。

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2004.11.26

哲学する猫

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哲学の道を、わしをはじめとする、雑念に満ちた観光客がぞろぞろ歩いているのにびくともせず、超然と哲学にふけっている猫がいました。

哲学の道の南端近く、写真に見える屋根は光雲寺でしょう。このあたり、昔も猫がたくさんいたなあ・・・そしてここら辺の伸びやかな雰囲気が大好きだった。

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法然院の錦秋

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数年ぶりに、哲学の道を訪れてみた。
金曜日の午前だったが、紅葉を愛でる人々で驚くほど賑わっていた。
この近くに住んで、よく散策していた頃と、風情がほとんど変わっていないのが嬉しい。
ただ、この紅葉の素晴らしさは、記憶にないのである。
「こんなにも見事だったか・・・」
夢中でシャッターを押し続けて、あっというまにメモリースティックが満杯(苦笑)

哲学の道から少し東側へずれた山裾に、法然院がある。
静かなたたずまいで、自然と共生していこうとするお寺の姿勢があちこちにうかがえる、素敵な寺院である。
ここの紅葉がひときわ目に沁みた。

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2004.11.25

小説「残光」第六十七回

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 微かな残光を浴びて、山塊の前に浮かび上がるのは、板を外壁に張った、古い小学校の校舎に似たシルエット。健二と駿、真那は、言葉もなく立ちすくむ。あの夏、六人で過ごし、夏の終わりと共に潰え去った、忘れることの出来ないかたちが、突如眼前に蘇ったのである。
「ふふ、驚いたやろ。これ、あの研究所とほぼ同時期に建てられたんやそうな。多分、設計・施工した業者は一緒やと思う。双子の建物の生き残り、言うところやろな」
いたずらっぽく笑う竜生の言葉に、興奮した駿の声が重なる。
「すごい!よく、よく残ってたね。よく見つけたね!ああ、窓の形も、玄関も、まるで同じだ。幻を見ているようだよ」
 我を忘れ、駿は建物の玄関に駆け寄っていく。戸惑い気味に、真那が続いた。扉のガラスに滲むオレンジ色の灯に吸い寄せられるように、駿は迷うことなくその光の中に踏み込んでいった。
「これは、何のつもりなんだ?」
 真那のスーツケースを下げて歩いていく竜生の背中に、健二は鋭く問いかける。振り向いた竜生の顔は逆光で表情が読めない。
「とにかく、入れや、健二。ゆっくり喋ろうや」
竜生は少し笑ったようだったが、そのまま建物に踏み込んでいく。舌打ちして、健二は三人の後を追って、低い石垣に刻まれている石段を駆け上がった。
(そっくりだ、気味が悪いくらい、同じだ)
 うそ寒い感覚を覚えた健二だが、扉の形、玄関から階段に続く石造りの床、漆喰塗りの内壁と黒ずんだ腰板などに目を移していくに連れ、圧倒的な郷愁が沸き起こってくるのを押さえ切れなかった。
(あの、磨り減った階段の手すりにもたれて、詩織がこっちに笑いかけて来そうだ)
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2004.11.24

小説「残光」第六十六回

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 やがて車は、東鞍馬口通りとの交差点に差し掛かり、瓜生山の斜面に建つ京都造形芸術大学の、神殿のような校舎の下を過ぎる。
「ここも、変わったなあ・・・」
駿が、見上げながら嘆息する。すると、車は右にウインカーを出し、細い道を山に向かって登り始める。
「なに?そろそろ着くの?」
揺れる車内で、真那がやや顔をこわばらせて竜生に訊く。
「ああ、一応、山荘なんや。趣味でこさえたやつやねん。こういうときに使わな、思うて。掃除しといたさかい」
 街灯もない坂道はすっかり闇に閉ざされ、つい今までの白川通りの賑わいが嘘のようだ。四輪駆動の力強さで車はやすやすと走っていくが、道は狭くなる一方である。側溝の上にかぶせた鉄板がガタガタと鳴る。道端に伸びた木の枝や笹が、車の窓を擦る。
 強引だが自信に満ちた運転で、車は曲がりくねった坂を登りきった。眼下に京都の夜景を見下ろす、比叡山に続く山肌の中腹である。砂利を踏みしだいてオフロード車は停止した。窓から見える景色に真那が嘆声を漏らす。
「すごい、こんなとこに、学生時代に来たかったな!」
 健二は、夜景と反対側を見て、愕然としていた。そこには、木造二階の小さな建物があり、ガラス窓から灯りが漏れている。そのたたずまいは・・・
「おい、これは・・・なんだ?あの、楠本蝶類研究所、そのまんまじゃないか!」
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2004.11.22

小説「残光」第六十五回

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 残光はひと時もとどまることなく変化していく。雲は流れ、光は薄れ、輝きははかない。
 竜生の運転するオフロード車は、神宮道を北上し、疏水を渡って平安神宮をかすめ、丸太町通りに出ると、右折して天王町に向かい、その角からまた北へ折れて、白川通りを疾走する。
「どこまで行くの?」
昔話に和んでいた真那が、ふと真顔に戻って訊ねた。
「すぐそこや。それにしても、みんなでこうやって喋ると、ほんま、あの頃に戻ったみたいな気分や。真那もちっとも変わってへんなあ」
竜生の嘆声に、真那はまた顔をほころばせる。
「あのスキーのとき、板持って行ったの、景子だけだったでしょ。ウェアも、彼女は新品、私は友達に借りたのよ。ずっと景子はお嬢様だったのよね」
駿も笑う。
「まだバブル景気の前だったからね。だから、あんなアルバイトに僕ら、とびついたんだ。3Kなんてものじゃない労働だった」
 景子の名前が出たとき、竜生の表情が僅かに動いたように、健二は感じた。
「ずっと、気になってたんだけど、景子の具合はどうなんだ?」
健二の問いかけに、竜生は間髪をいれずに答える。
「ずいぶん良うなったで。けど、大勢の人前に出れるにはしばらくかかるやろな。でも、大丈夫や」
 真那が遠慮がちに、竜生に聞く。
「景子は・・・もう、クスリに頼らずにやっていけそうなの?」
「当たり前や、あの景子やで。俺らの誰より強かったあいつや。ほら、明石の海に泳ぎに行って、鮨に全員あたったことがあったやんか」
「あったあった!みんなひどい目にあったのに、景子だけぴんぴんしてたね。鋼鉄の胃腸だって呆れたんだよ」
はしゃぐ駿から、顔をそむけて、健二は消えていく残光を追っている。
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小説「残光」第六十四回

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 電話を掛けてきたのは竜生である。
「今、春川先生の家や。ご親戚はついさっき、帰らはった。健二たちは、どこや?」
 健二がホテルの名前を告げると、竜生は少し沈黙したが、すぐに指示する。
「ほな、俺の車で迎えに行くさかい、あと十五分したら玄関に出てくれるか?」
「わかった。で、どこで話をするんだ?春川先生のところか?」
「いや、ちょっと別に場所をとったんや。なに、時間はかからへん。けど、真那には、そこチェックアウトしてもろうたほうがええな」
「え?どういうことだ?泊りがけで喋るってことか?」
「みんなが集まったんは、随分久しぶりや。ゆっくりしよやないか。」

 残光に照らされる玄関に、オフロード車の無骨な車体が横付けになる。身軽に運転席から降りてきた竜生は、真那のスーツケースを荷室に手早く積み込んだ。
「今は、こんな車に乗ってるんだね。あの頃は、竜生の親父さんのセドリックをこっそり借りて、みんなで琵琶湖やら舞鶴やら、ドライブに行ったっけ」
 二列目の座席に収まった駿が、八人乗りのゆったりした車内を見回しながら嬉しそうに言う。
「一編だけやけど、スキーにも行ったで。誰も滑り方知らんと、最高のドタバタ道中やったなあ」
竜生も朗らかに白い歯を見せて笑う。助手席に座った真那も、懐かしそうに微笑んだ。
「ナイターで滑った帰り道に、健二が迷子になって、ホテルに帰ってこなかったわね」
「大騒ぎして、みんなで探しにでようとしたら、健二、雪まみれになって裏庭からスキー履いて食堂に突っ込んできたんだよ」
駿が、腹を抱えて、横に座る健二を指差す。
「笑うな。そのあと、飲めない酒飲んで、風呂場でひっくりかえってたのは駿だぜ」
仏頂面で健二が言葉を返すと、車内はさらに笑い声で満ちた。 
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2004.11.20

紅葉2

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小説のほうは、いまだに真夏のあたりなので、秋の写真が使えないままに終わるかも、
と焦り、少しアップしてみます。
山科にある小さなお寺で撮りました。

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2004.11.19

小説「残光」第六十三回

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 夕雲を染める残光が、何かを予兆するかのように壮烈である。
「すごい夕焼けだな・・・」
ガラス越しに眺めながら、健二が呟くと、駿と真那も視線を空に上げた。
 数週間前、美咲が仕事で寄っていた東山のホテルである。景子が定宿にしていたここに、今は真那が部屋を取っているのだ。ノースリーブの白いワンピースに着替えてきた真那と、そのままホテルのレストランで夕食を摂っている。駿も真那もあまり食欲はない様子だが、健二は健啖にステーキを食べ、珈琲をお代わりした。
「春川先生の遺書って、なんだかそんなの聞かされるの、気が重いわ」
 ピラフの皿にほとんど手をつけず、真那が口を尖らせる。アイスティーばかり飲みながら、駿も頷いた。
「僕が教えたとおり、神戸に詩織の墓はちゃんとあったんだろ?確認してきたそうじゃないか」
「ああ」
「だったら、別に何もショッキングな内容じゃないよ。大体はもう、予想がつくさ」
「どんな中身だと、駿は思うんだ?」
残光から目を離さすに、健二は問いかける。
「蝶類研究所コレクションの横流しのことだと思うよ。あれは、自分に罪があった、許して欲しい、そんなことが書いてあるんだと思う」
 その時、健二の携帯電話が鳴った。パッヘルベルのカノンは、凄絶な残照のなか、弔鍾のように聞こえる、と健二は思った。
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2004.11.18

料理の写真

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えー、これは何かといいますと、息子の誕生パーティのために
わしと嫁はんが合作した「かいけつゾロリハンバーグ」であります(笑)
オーブンで焼いた巨大ハンバーグの上に、薄焼き卵でゾロリマーク(つまりはキツネの顔)
を作って貼り付けたもの。味は、我ながら上々(^^)
料理の写真が、どれだけ美味しそうに撮れたか、アップしてみましたが、まだまだだなあ・・・
というか、もっとまともな料理で撮らねば(爆)

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2004.11.17

紅葉

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団地の中にある公園で
何気なく拾った
あまりに綺麗な一枚の葉

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2004.11.16

小説「残光」第六十二回

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 春川教授が臨終を迎えたのは、お盆の少し前だった。
 教授の夫人は数年前に逝き、一人娘の景子は「入院中」。日ごろはほとんど縁遠いらしい親族が少数集まって看取るなか、葬儀の手筈などを中心になって進めているのは竜生である。
 健二と駿は、廊下に出て、窓の外を眺めた。無残なくらい古ぼけた旧病棟と、新築されたばかりの病棟との間に、焼却炉らしい巨大な煙突が立ち、気のめいるだけの風景だ。
「真那に連絡したか?」
健二が訊ねると、駿はかぶりを振る。
「君がしたほうがいいよ」
 顔をしかめ、健二は公衆電話に歩いていく。ふと振り返って駿に言う。
「真那とは、きちんと話した方がいいぞ。おまえが、病気とまともに向かい合うつもりならな」
駿は口をつぐんだままだが、かすかに、頷いたようだった。

 その晩の通夜、翌日の葬儀ともに、街中の葬儀会社の建物で行われて、形どおりに進行した。大学関係者、教え子たちもかなり参列したが、式が済むと未練もなく人々は散った。
 遺骨を教授の自宅に運ぼうとしている竜生に、健二は歩み寄る。
「さあ、教授の遺言の公表は、どこでするんだ?俺たちも教授の家に行けばいいのか?」
「ご親族がまだいはるさかい、そないなこと、大声で言うたらあかんがな」
叱責する竜生は、しかしすぐに小声で伝える。
「後始末が終わったら、連絡するし、携帯の通じるトコにいてくれや。今、午後四時やし・・・六時には電話する」
 黒塗りのハイヤーに乗って去った竜生を見送ると、健二は駿と真那を振り返る。着替えて軽く食事しながら連絡を待とうと相談が決まった。
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2004.11.13

小説「残光」第六十一回

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 祇園を流れる白川には、緑の柳が枝を垂れ、水底には小魚が群れて、暑熱の中も涼やかである。
 巽橋の欄干に寄りかかり、健二はしばし、憩った。いつも、時が止まっているように感じられるこの界隈・・・お茶屋遊びなどには縁のなかった健二にも、仲間と飲み歩いたり、そして、詩織と寄り添って散策したりした想い出が蘇る。
 これまでは、できるだけ、振り返らないようにしていた、と健二は思う。ことさらに、目の前の些細な事にだけ集中して、あの頃のこと、詩織のことを、まともに思い出さないようにしていた、と。
 今は、甘美な記憶でなく、非情な真実をあばくため、健二は突き進んでいる。
(けど、苦しいな。・・・美咲の声が、聞きたくなる)
 何度か、携帯電話を取り出し、掌でもてあそびながら、健二はかけることなく、またポケットに戻す。
 日傘を差して、普段着の和服を着た舞妓が通り過ぎた。
(あの頃の詩織や、今の彩夏と同じくらいの歳だな・・・)
 素顔に近い舞妓は、幼ささえ感じる顔立ちで、健二にはその足取りもどこか危なっかしく思えた。
(あの子や、彩夏は、精一杯背伸びして頑張ってるのだろうな・・・詩織は、どんな気持ちであの日々を送っていたんだろうか)
 石畳の上に陽炎が立つ。その中に揺らめいて遠ざかっていく舞妓の後姿を、健二はしばし見送った。橋下の水面に魚が跳ねて、小さな音が響く。
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2004.11.12

小説「残光」第六十回

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 梅雨は明けたかに思われて、炎熱の下で京都の町はあえいでいる。
 健二は、駿が彩夏と暮らす家を訪ねる。石畳に水が打たれて、路地(ろうじ)は辛うじて息がつける。
「そうか、彼女が詩織の娘じゃないことも、お前の病気のことも、お互い話したのか・・・」
駿が注いでくれた麦茶を啜り、健二は頷く。
「なんかね・・・日常の生活を、ずっと続けていくには、かっこつけていては、いられないね」
駿は、色白の顔にうぶな笑いを浮かべた。
「怖くなったんだよね。春川先生の姿を見ていたら・・・」
 健二は部屋を見回し、箪笥の上に置かれた薬袋や、カレンダーに書き込まれた「検査」という文字を見ながら、訊ねた。
「彩夏ちゃんは、今は仕事か?」
「ああ、あのスーパー、24時間営業になってね。シフトがコロコロ変わって、かなりきつそうなんだ」
 健二は、麦茶のコップをテーブルに置き、無表情に一気に喋る。
「春川先生は、昨日から危篤だ。竜生から連絡は来たか?」
 驚いた表情になり、駿は眼鏡の奥でまじまじと目を見張る。
「いや、何も言ってこないよ」
「そうか・・・それともうひとつ、気になることがある。景子がこっそり退院してる」
「ええ?・・・麻薬中毒、そんなに早く治るのかい?」
 健二は苦笑し、すぐにシニカルな表情になる。
「治るわけないさ。竜生が、身元を引き受けて、表向きは個人病院に転院させたことになってる。でも景子は、ホテル暮らしに戻ってるよ」
 駿は、汗で顔から滑る眼鏡をつかみ、激しく瞬きをする。
「健二、君は・・・」
「竜生は、春川先生の遺言を、もう、読んでいるはずだ。俺があいつだったら、ぜったいそうするさ。あいつに出し抜かれちゃならない。竜生から連絡があったら、すぐに俺に知らせてくれよ」
 駿は、やりきれないような表情になって呟いた。
「いったい、どうなってしまうんだ、僕たちは・・・黄金の六人、だったのに!」
「終わらせるんだよ。俺たちの青春に、けりをつけるんだよ」
 きっぱり言い放ち、健二は駿の家を出る。油蝉の鳴き声が、陽光の中に満ちている。
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2004.11.10

小説「残光」第五十九回

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 ことさらに無機的なビルのロビーで、その人物は待っていた。
「約束の時間通りだすな。ほな、お渡ししまひょか」
物柔らかな言葉を紡ぎだす男は、細身の体躯にアルマーニのスーツを着て、喋り方にふさわしい優しい容貌をした四十歳くらいの年恰好である。
「今、ここで開けていいですか?」
手渡された大判の封筒を手に、健二は鋭い目つきで訊ねた。男は軽く笑って、ロビーの隅のソファを示す。
「そらもう、よろしいで。どうぞ、ごゆっくり検分しとくれやす」
革のソファに腰を落とし、貪るように健二は封筒の中の書類を読んだ。読み終えて、歯を食いしばり、しばらく耐える。
 男は少し離れて、煙草をふかしながら、ガラス越しに宵闇の空を見上げている。
「結構です。これだけきちんと結果を出してくれたら、十分です」
健二は懐から、茶封筒を取り出し、男に差し出す。男は真面目な顔で受け取り、上目遣いに言う。
「領収書、いりまっか?」
健二は首を横に振った。男は頷くと、握手を求めた。戸惑う健二に、男は笑う。
「わての、流儀でんねん。依頼人とは最後に、心込めて握手して、それで全部忘れます」
健二は立って、男の手を握った。白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべ、男は立ち去った。

 京都に戻る新快速電車の中で、健二は目を閉じ、呪文のように胸の中で唱える。
(検体をDNA鑑定した結果、サンプルAとは、98.7パーセントの確率で親子と認める)
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2004.11.08

かにかくに祭


祇園をこよなく愛し、全国にその魅力を広める広告塔の役を果たした歌人にして劇作家、吉井勇の歌碑が、祇園の白川巽橋のほとりにある。
刻まれた歌
「かにかくに 祇園はこひし 寝るときも 枕のしたを 水のなかるる」

その碑を建立した11月8日、毎年彼を偲んで、お茶屋さんや屋形の女将さん、芸妓さん舞妓さんが集まって菊の花を手向けるのが、「かにかくに祭」。
元来、関係者だけが集まって風流に行われるものだったらしいのだが、なにしろ、盛装した芸妓さん、舞妓さんを間近に見れる機会なんてめったにないため、近年はやたら見物客が増えることとなった。
かくて本日、よく晴れた午前11時、献花にやってきた舞妓さんたちに、餓狼の如く群がり嵐のようにシャッターを切るアマチュアカメラマンと観光客の群れ!(わしもそのひとりやがな・苦笑)
「こっち向いて!」「その帽子、邪魔やとらんかい!」
「うちにも写真取らせてな!」「あほ、何時間前から場所取りしたとおもっとるんじゃ!」
雅やかなイベントが一瞬にして阿鼻叫喚の渦(涙)
その中心で、あくまで典雅に美しく立つ芸妓さんと舞妓さんたちは、立派だなあ・・・と心底思った。

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2004.11.06

小説「残光」第五十八回

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「確かに、あの頃のうっとこのお客はんに、その先生はいはりましたえ。祇園の遊びを覚えて間もない、いう感じのお人やった」
「それで、その頃、お店に、この女の子はいましたか?」
 健二は、一枚の古い写真を差し出した。老女はバッグから眼鏡を取り出し、しげしげと見つめた。
「うちも、もうええ歳やし。ようけ女の子は出たり入ったりしましたしなあ・・・」
「十八歳未満だったんですよね、その当時、この子は。それを承知で・・・というより、あなたのお店は、密かにそれを売り物にしていたんじゃないですか。まあ、そんなことはもう、とっくに時効ですけどね」
 老女は黙りこくり、写真を卓の上に投げ捨てるように置いた。
「俺はね、その子がどこへ消えたか、知りたいだけなんです。その子と、春川教授の繋がりがないか探したら、あなたが昔経営していた店が出てきた」
「はん、えらいご執心だったんどすな」
からかうように、老女は目を逸らしてうそぶく。
「お願いしますよ、この子と春川教授は、面識があったんですね?」
「そないなこと、いまさら聞かはってもなんにもならしまへんやろに」
へらへらした口調で喋る老女に、健二はぐい、と顔を突き出した。
「水揚げ、という言葉がありますよね。舞妓が、一本立ちして芸妓になるとき、旦那が付くことだ。でももっと直截には、舞妓が初めて男に抱かれること。ねえ、俺は『よそさん』だから、回りくどい話は苦手だ。あんたの店は、十代の女の子に、水揚げさせることで、稼ぎをあげてた」
健二は写真を拾い上げ、老女に突きつけた。
「この子を水揚げしたのは、春川先生だった・・・違いますか?」
老女は、不意にニタリ、と笑った。般若のように凄惨な笑みだった。

 京都駅前の雑踏のなか、健二は夕空の京都タワーを見上げる。幻想的にそそりたつ姿に、唾を吐きかけたくなる気分を覚えて、挑むようにしばし立ち尽くした。
 やがて、荒々しく肩をゆすって横断歩道を渡った健二は、駅構内に踏み込んでいく。そして大阪行き新快速電車の切符を買った。
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2004.11.05

小説「残光」第五十七回

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 雲の向こうの太陽の、猛烈な熱を感じさせる不透明な空の下、湿気と暑さに健二は汗を拭きながら、坂道を登る。八坂の塔に近い、車の行き来できない狭い道である。すれ違った観光客を乗せた人力車、その車夫の首筋に、汗が滝のように流れている。
 一軒の民家の格子戸を開き、健二は玄関の戸を叩いた。「へえ、どちらさん?」と年配の女性の声が応え、「柳田です。小西さんから呼ばれて、来ました」と告げると、やがて戸は開かれた。
 五十歳前後かと思われる和服の女性が、腰を低くして健二を案内した。典型的な京の町屋である。入って右側に三畳ほどの玄関間があり、左には台所に続く土間がある。脱いだTimberlandのワークブーツを揃え、健二は玄関間から、奥の部屋へと踏み込む。
「お久しぶりどすな、こないなとこにお呼び立てして、えろう、すんまへんどした」
 座敷の真ん中に据えられた紫檀の卓の向こうで、丁寧にお辞儀をするのは、御幸町錦の民宿の女あるじだ。
「いえ、こちらこそ、不躾なことをお願いしまして、恐縮です」
ジーンズで正座する健二に、膝を崩すよう勧めながら、老女は坪庭を見やる。
「うっとおしい暑さどすなあ、はよ、雷さんがピシャピシャ!と落ちて、梅雨があけてしまいよし、思いますわ」
「そうですね。京都に来てまず、参ったのはこの時期の暑さでしたよ」
健二は、この女性の名前を「小西のおばあちゃん」としか知らない。粘り強く、話に相槌を打ちつつ、相手が用件を切り出すまで待つ。
「柳田さん、あんたも、ええかげん、真那ちゃんの想いに応えてあげな、あきまへんえ」
いかにもそれが、主要な用件といわんばかりに、老女は器用にウインクする。
「小西のおばあちゃん、それは、出来ない相談ですよ」
「真那ちゃんは、そらもう、潔い女子どすわ。さばさばした関東の気質で、そやさかい、思いのたけを正直に言えへん。ここはもう、男はんのほうから・・・」
健二は苦笑して片手を挙げ、老女の饒舌をさえぎった。
「勘弁してくださいよ。私の依頼したことが、花街(かがい)の仁義破りだということは、よくわかってます。それを押してお話を聞きたいんですから、それなりのものは、用意してます」
 話の腰を折られて不機嫌な顔を見せていた老女は、やんわりと笑顔になった。
「うちが、昔祇園でクラブやってたいうこと、よう聞き出しはりましたな。ほんで、その頃のお得意さんのことを知りたいやなんて、とても、うちの店やご近所じゃよう話せまへん。ほんで、こないなとこへご足労願いましたんどす」
「感謝してます。私もまさか、線をたどっていったら、小西のおばあちゃんに行き着くなんて、想像もしてませんでしたから」
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2004.11.04

小説「残光」第五十六回

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 健二は目を上げて、美咲の視線をまっすぐに受け止めた。
「待ってて、くれるか?」
「うん」
「終わらせるまで、待っててくれるか?」
「うん!」
 健二は手にしていたロックグラスを置き、立ち上がって手を差し出した。
「出ようか」
「うん!」
美咲は舞い立つように立ち、健二と手を繋いだ。

 七月の熱い夜気の中を、二人は歩く。握り締めた掌の温かさが、健二にはこの上なく大切なものに思える。
「美咲の家は、どこだ?そこまで、歩いて送って行きたい」
健二の昂ぶった声に、美咲は小さく笑う。
「だめ。うっとこまで連れて行ったら、うち、きっと、健二に上がるように言うてしまうから。終わるまで、待たなあかんやろ」
「そうだったな」
健二は苦笑し、強く握った手を、軽く握りなおす。曇り空で星は見えない。街路の明かりが火照った二人の頬を照らす。
「けど、まだわからない。なんでおれなんかを・・・」
「理屈やあらへん。でも、説明してみよかな・・・健二は、ナウシカって、知ってる?」
「宮崎駿の、アニメだろ。好きだよ、封切りのときに見たさ」
「その宮崎さんが、漫画でもナウシカ、書いてはって、その単行本のあとがきに、書いてあってん。
ナウシカは、もともとギリシャ神話に出てくる王女で、海辺にぼろぼろになってたどり着いたオデュッセウスいう、英雄を助けたんや。彼女は、不吉な血まみれの男の中に、光りかがやくなにかを見い出した・・・って」☆注
 美咲は歌うように語り続ける。
「うちは、そんなナウシカになりたい、思うた。合コンで、相手に職業と年収を聞いて回るような女には絶対なりとうなかった。たとえ、一生オデュッセウスにめぐり合えなくてもええ。ナウシカでいたいと思ってきた」
 健二は驚いて美咲を見返す。美咲は微笑している。
「二十年も一人の人を想い続けて、その人が死んだことを知って、ぐしゃぐしゃに泣いてた男が、うちのオデュッセウスや。不吉な血まみれの男、やのうて、不細工な涙まみれの男、やったけど」
「光りかがやくなにか・・・を見い出したってか」
 途方にくれたように首をかしげた健二に、美咲は明るく笑って、強く手を握った。
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☆注・・・徳間書店刊 アニメージュ増刊「風の谷のナウシカ」第一巻 宮崎駿著 あとがき「ナウシカのこと」より

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2004.11.03

小説「残光」第五十五回

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「どういうこと?詩織さん、生きてはるってことなん?」
「それは、たぶん、ない。ただ、死んだ理由と場所が、はっきりしないんだ」
「はっきりさせる、つもりなの?」
「そうしないと、終わらないよ」
ビールを焼酎のロックに替えて、健二はグラスをあおる。美咲は、強い視線で健二を見た。
「今までずっと、はっきりさせずにきたんやろ?終わらせへんために」
 健二はごくり、と唾を飲んで美咲を見返した。
「そう、かもしれないな・・・いや、きっとそうなんだろうな」
 美咲は、じっと健二を見詰めたまま、低く呟いた。
「終わらせて。きっと、終わらせるって約束してくれへん?」
「約束・・・?」
戸惑う健二に、美咲ははっきりと頷いた。
「うちと、約束してもらえへんやろか?」
 なぜ、と問いかけようとして、健二は口をつぐんだ。胸の動悸が高まっていた。
 からだの芯で凍り付いていた何か大きな塊が、一気に溶けていくような感覚に、健二は痺れている。
「俺なんかに、そんな資格があるのかな?」
呻き声で漏らした健二の言葉に、美咲の囁きがかぶさる。
「あんたを縛ってたものから、楽になって欲しいねん。二十年も同じ人を想ってたあんたは、もう、十分に尽くしたんや。でもそのせいで、あんたは抜け殻みたいになってる。ほんまのあんたになって欲しい」
そして、美咲は、緊張で声を震わせながら言った。
「うちの、ために、約束して」
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2004.11.02

小説「残光」第五十四回

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 よく冷房の効いた地下の小料理屋で、刺身や佃煮を肴に、美咲は旨そうにビールジョッキを空けた。花屋の駐車場に車を置き、店に帰って着替えて、徒歩で健二をここまで連れてきたのである。小気味良い飲みっぷりに釣られて、健二もジョッキを傾けた。酔いが、からだの深いところから疲れをほぐしてくれるのを感じる。
「彩夏・・・宵山は楽しかったみたいやな。あんたが、写真撮ってくれたって、言うてた」
「ああ、引っ張りまわしてくれたよ。元気だなあの子は。駿は・・・そういや、さっきもかなり疲れた顔だったな」
「それは・・・お見舞いに行った人って、重い病気やったん?」
「まあな。ここ一ヶ月くらい意識がないって聞いた」
健二の言葉に、美咲は眉をしかめ、口をへの字に曲げた。
「駿さんも、病気やんか。自分が重態になったときのことを想像して、気分重うなってたんちがう?」
 健二はちょっと驚いて、美咲の顔を見つめた。
「しまったな・・・俺は、自分の思いにかまけてて、そんなことに気が回らなかったよ」
「あかんやん、親友なんやろ?なんかまたあったん?こないだみたいに、思いつめた顔してはったから、一杯やったほうがええ思うて、誘ったんやけど」
 健二は美咲の言葉が、胸に沁みるように思った。
「・・・彩夏に、詩織のことを聞いて、もう、全部終わったと思ったんだがな・・・」
カウンターに肘を突いて、掌にあごを乗せ、健二は呟く。
「わけがわからなくなってきたんだ」
 小首をかしげ、健二の声に耳を傾ける美咲の顔。健二の目に、店の間接照明に浮かぶ美咲の顔が、菩薩のように清楚で慈愛に満ちて映っている。
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