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2004.10.14

小説・残光(仮)第四十三回

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 祇園囃子の音色がいつまでも響く中、疲れ果てるまで、三人は賑わいに揉まれた。渡されたデジカメのメモリーが一杯になるまで撮り、健二はカメラを駿に返した。
 囃子方が鉾を離れ、高張提灯を掲げた移動式の台に鉦をぶら下げ、それぞれに独特の祇園囃子を奏しながら、八坂神社へと向かっていく。明日の山鉾巡行の好天を祈る「日和神楽」である。
 なんとなく、健二はそれを追いかけて四条通を東へ歩く。駿が手を挙げて、人込みの向こうから叫ぶ。
「もう、帰るのかい?健二!」
「ああ、駿も、気をつけて帰れよ」
「サンキュ、またな!」
 背を向けかけた健二に、見物客を掻き分けてやってきたのは彩夏だ。
「健二さん、今夜はおおきに!これ、あんたの分ももろといた」
渡されたのは、長刀鉾の名の記された厄除け粽(やくよけちまき)である。そして、今夜初めて彩夏は健二をまっすぐに見つめ、顔をほころばせた。その笑顔に、健二は見とれた。
 瞬時に身を翻して、彩夏は下駄を鳴らし、駿の元へ戻っていく。結い上げた髪が、すぐに見えなくなった。
 健二は、粽を握って、日和神楽の後を追い、四条通の混雑を縫う。車道が歩行者に解放されている区間を抜けだし、四条大橋を渡ると、彼方に八坂神社の西楼門が見えた。
 何度か夜もその前を通ったが、視線を向けることのなかった、夜の門である。おびただしい参詣客が訪れながら、ただ一人の恋人はついにやってこなかった門である。
 ライトアップされたその朱塗りの楼閣を見つめながら歩んでいく健二の胸に、いつもの痛みはない。疑い、焦燥し、恨み、煩悶したあの一夜の痛みは、今やっと、溶けていくような気がしている。
 東大路を渡り、石段を上りきり、あの夜、そうしていたように、健二は門の北川の柱に背中をつけてもたれた。
(あの夜、どこにいたんだ?詩織・・・それだけが、知りたいぜ・・・)
 そのとき、かすかな呟きが、門の中の闇から響いた。
「そこにいるのは・・・健二?」
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