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2004.10.13

小説・残光(仮)第四十二回

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 祇園祭の宵山を、数年ぶりに健二は歩いている。湿気と熱気でたちまち服から汗が絞れるほどになる雑踏である。
 約束した南観音山の近くで、駿と彩夏が待っていた。二人とも下駄に浴衣で、駿は恥ずかしそうに健二にデジカメを差し出す。
「俺たちを、撮って欲しいんだよ」
 駿の赤らんだ顔を見て、健二も破願した。彩夏は健二から目をそらしつつ、腕を駿の肘に絡めている。まずは一枚、南観音山を背景に、健二はシャッターを押した。既に暗いので内蔵フラッシュが閃く。
「記念撮影みたいなのは、今の一枚だけにしてくれ。あとはスナップショットで」
「うるさいぞ、さっさと歩け、ちゃんと撮ってやるから」
心地悪そうな駿を手を振ってせかし、健二は二人の後ろに就いて歩いた。
 肩幅が広く、首の短い駿の浴衣姿は、お世辞にも粋とは程遠いが、寄り添う彩夏の白地に草花を散らした浴衣は瑞々しくも艶やかである。髪を結い上げたうなじの白さが健二の目に沁みる。
 彩夏が綿菓子をせがんだ。金魚すくいに駆け寄った。一本の焼きとうもろこしを、駿と分け合って齧った。
 旧家が戸を開け放って、秘蔵の絵や工芸品を見せている座敷を覗き込んだ。祭り提灯の灯かりに照らされる二人の横顔に、健二はフラッシュなしでスローシャッターを切る。
(俺と詩織は、ついにこうやって、宵山を歩くことはなかった)
感傷が健二の胸を焼く。彩夏の横顔に詩織の面影を重ねずにはいられない。
「それ、これが健二の宵山の定番だったね」
不意に、目の前に缶ビールと串に刺した焼きイカが突き出され、健二はのけぞった。差し出す駿の横で、彩夏が慌てた健二の様子に身体を折って笑った。健二も苦笑して、焼きイカにかぶりつき、缶ビールをのどを鳴らして飲んだ。
 詩織に会う前月の宵山を、駿と二人であてどなくうろついたことが思い出された。そして次の年の宵山、健二は八坂神社の石段で、詩織を待ち続けたのだった。
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