« 京都・観光文化検定試験 | トップページ | 小説・残光(仮)第四十二回 »

2004.10.12

小説・残光(仮)第四十一回

cho.JPG

----------
 夕日が最後の光を投げてきたとき、傍らの地面で、赤い炎が閃いたように見えた。健二と真那は同時に目を向けて、一緒に声を上げた。
「あの蝶は!」「ヒョウモンだ!」
 オレンジ色の翅に黒い斑点を散らした、野性的な美しさを持つ中型の蝶が、塔の前の雨ざらしの地面に留まり、翅を緩やかに開閉しながら息づいている。
「蝶類研究所の、標本箱の中にいっぱい、いたね」
「ああ、ヒョウモンはたくさん種類があって、どれもみんな似ていて、同定が難しいって、竜生が教えてくれたな」
「しっ!飛んで行っちゃうよ・・・」
 ひらり、とオレンジ色の火の塊のように、豹紋蝶は舞い上がった。
 その瞬間、健二の胸に想い出が溢れ出た。
 ギンボシヒョウモン、ウラギンヒョウモン、ツマグロヒョウモン、クモガタヒョウモン・・・・行方不明の昆虫学者が記したカードの上にピンで留められた、可憐な蝶たちの遺骸。
 見守る詩織の瞳に、夕日が映っていた。
 駿が図鑑を持ち出してきて、竜生と希少種だとかそうでないとか論議を始める。
 景子がラムネをラッパ飲みしながら、真那と肩を組んで標本箱を覗き込む。二人の首筋に流れる汗にも、夕日は美しく反射している。
 滅んでいく建物と、世界の終わりのような赤い夕日のなかで、朽ちることを免れた蝶たちは宝石のような光を放っていたが、それを観ている、若者たちこそ、何よりも輝いていたのだった。

 豹紋蝶は、旋回しながら塔の屋根にまで到達し、やがて落日の方角へ飛翔していく。
「詩織と生きたあの頃が、贋物の青春じゃなかったように、あたしと駿が結婚して暮らした月日だって、嘘に満ちていたわけじゃないんだよ」
 真那は、力強くそう言った。
「今日は東京に帰る。でも、また来るからね。それまで、駿をよろしくね」
 そして、真那は新幹線に乗って去った。
------------ 

|

« 京都・観光文化検定試験 | トップページ | 小説・残光(仮)第四十二回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/20826/1657960

この記事へのトラックバック一覧です: 小説・残光(仮)第四十一回:

« 京都・観光文化検定試験 | トップページ | 小説・残光(仮)第四十二回 »