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2004.10.08

小説・残光(仮)第四十回

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 健二は、真那の手を引いて、東山の斜面を登った。木々に覆われた古径が、不意に開けると、そこに小さな三重の塔があった。そして、視界は遥かに京都市内すべてを見遥かしていた。
 塔の基壇に腰をかけ、真那を隣に座らせると、健二はいとおしむように、塔の苔むした基壇を撫でる。
「そんなに古くはないし、由緒ある寺でもないけど、ここは、俺が学生時代に見つけた秘密の場所でね。駿と来たことがある。それから・・・詩織とここで、キスした。俺は、幸福だったよ」
 真那は、まだ涙を流し続けている。その肩を抱き、健二は空を横切る飛行機雲を仰いだ。
「詩織だって、しあわせだったと、俺は信じる。俺たちと過ごしたあの日々は、詩織にとってもかけがえのないものだったんだ。詩織は、本当に、京都で学生をやりたかったんだ。あいつ、俺とのデートで、何を一番喜んだと思う?
 寺や神社巡りでもない、京料理やレストランの食事でもない。あいつ・・・学生食堂で定食を食べたり、名画座で三本立て観たり、俺の大学の生協で本を買ったり・・・そんなことを一番喜んだんだ。あいつは、心から、京都で学生したかったんだよ」
「でも、その夢は、叶わなかったじゃない。友だちだったあたしたちから、敵意とさげすみの目で見られて、京都を去ったんじゃない」
「ああ・・・あれから、竜生も景子も、詩織のことは一切口にしなかったな。でも、詩織を裏切者って言い続けた真那だって、今、詩織のために泣いている。詩織を悼んでる」
「当たり前じゃない、詩織は・・・あたしと、青春を一緒に歩いた、宝物の一人だった」
「そうだろ。俺たちが詩織と一緒に過ごした時間は、偽じゃない。あのときの詩織の笑顔は、贋物なんかじゃないんだ」
 長く、長く、真那は泣き続けた。その涙が、また健二の肩に沁みた。
(今日、青春が終わる。そんな気がする・・・)
真那の肩を抱いたまま、健二は暮れて行く空に、いつまでも視線を向けていた。
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