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2004.10.06

小説・残光(仮)第三十八回

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 真那は、たぎる思いを爆発させたように声を上げる。
「こんな土地に住んでいるから、健二はそんな風になっちゃったんだよ。京都は、綺麗な場所がいっぱいあって、それがずっと変わらない。凍りついた想い出のなかに閉じこもって毎日暮らすようなところだ。もう、こんなところから、出た方がいい。出て、あたしと・・・」
「今、それを言うのか、真那」
健二の視線が、真那を射抜くように鋭くなる。
「俺は、詩織と行く道を選んだんだ。真那は、詩織が裏切ったって、何度も言うけど、俺はそう思っちゃいない。昨夜の、駿の話を聞いてもそれは変わらないんだ。俺の中にしかない、もろくてはかない虚像に過ぎなくったって、詩織とのことは、俺の人生の真実なんだ」
 真那は立ち上がり、挑むように胸を張って健二に迫る。
「詩織は、あの夏の想い出を汚したのよ。あたしたち六人の青春に、消せない泥を塗ったのよ。なのに、どうして健二はそんなに詩織を美化できるの?」
 健二は怒りに燃える真那の瞳を正面から受け止めながら、深く頷き、静かに話し始めた。

「蝶類研究所にあった、図鑑や標本のコレクション、その他の資料、価値のあるものがかなりあって、まとめて俺たちは春川教授に渡したね。でもその中からかなりの量が闇の市場に流れて、教授が責任を問われた。そして俺たちが問い詰められた時、詩織が身分を偽ってたことが発覚した。最悪のタイミングだった。横流しは、詩織が全部責任をかぶせられた。詩織は、あの下宿にもいられなくなった。みんなの前からは、それきり詩織は姿を消した。でもそれからしばらく、詩織は俺の部屋で暮らしていたんだよ。」
健二は、曇り空を仰いで、大きく息をつく。真那は水路閣の橋脚に背中をつけて、腕を組む。
「もちろん俺は、詩織に尋ねたさ。本当に横流しをやったのかって。詩織はきっぱり否定したよ。俺は、それを信じた。偽の学生を名乗った理由も、話してくれたさ。でも、駿が言ったように、詩織はたくさんのことを隠していた。そうさ、本当の名前さえ、俺に知らせてくれなかった。横流しの真実だって、詩織には話せないことがいろいろあったんだ・・・。真那、あれは、春川教授が最初から仕組んでたことだったのさ」
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