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2004.10.31

小説「残光」第五十三回

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 美咲は手にした大量の花束を、無造作に地面に置くと、健二に駆け寄ってきた。
「あんた・・・どっか悪いの?」
 健二は苦笑して、首を横に振る。
「知り合いの見舞いに来たんだよ。駿も一緒だった」
「そうなん・・・でも、顔色ようないね」
健二は、美咲の視線が照れくさくて、顔をごしごしこする。
「昨夜、寝てないからな・・・あ、花、ほっといていいのか?」
 美咲は、ちらっと地面の花束を振り向き、苦笑する。
「あれ、全部ほかすやつやねん。この病院のあっちこっちに飾ってあったやつを、取り替えてきたんや」
「花屋さんだったのか?」
 美咲は笑って頷き、花束を拾って、駐車場の中に入っていく。軽のワンボックス車の荷台を開き、花束を置く。
「肉体労働もええとこやけどな。こんで、まだ一軒、いかなあかん。くたびれるわ」
くたびれる、と言いながらきびきび動いて花を積み込む美咲の様子が小気味良くて、健二はなんとなく見惚れていた。
「なあ、最後の配達に付き合ってくれへん?それ済んだら、ビール飲みたいんや。一人じゃつまらんし」
美咲がかけてきた言葉に、健二は思いもかけない喜びを覚えながら、頷いていた。

 最後の配達先は、東山の斜面に建つホテルだった。建て替えを繰り返し、今は名前も昔と少し変わったが、豪奢な雰囲気は、老舗の意地を感じさせる。
 地下の業者用駐車場に留めたワンボックス車の中で健二が待っていると、美咲はエプロンを外しながら乗り込んできた。
「お待たせ。今日も汗だくやったわ。はよ、車置いて飲みにいこ!」
地上に出ると、ホテルのロビーの明かりが映える。車窓に流れるまばゆい光を見ながら、健二は思いだす。
(そう言えば、このホテルは、よく景子が使ってたかな)
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