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2004.10.29

小説「残光」第五十二回

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 竜生の気迫は、健二のそれと拮抗した。息を飲んでいた駿が、不意に、ふっと笑う。
「君たち、変わらないなあ・・・すぐむきになって、張り合ってたじゃないか、あの頃もさ」
 絶妙の間合いで、緊張をほぐすのが、あの頃の駿の役割だった・・・と、健二は思い出す。同じことを竜生も感じたらしく、苦笑いが浮かんだ。
「竜生、ちゃんと食べてるのかい?ひどい顔してるぞ・・・先生の容態は安定してるようだし・・・ちょっと出て食事しないか」
 駿の提案に、竜生も健二も、肩の力を抜いて頷いた。

 三人は病院近くの大衆食堂に入った。夕食というには早すぎたが、健二にはその日初めてのまともな食事だったし、竜生も似たようなものらしい。
「景子は、一体何を飲んだんや?」
「錠剤のLSD。もろ、致死量だったそうだけど、カプセルが丈夫で溶け切る前に胃洗浄したから」
健二の説明に、竜生はため息をつく。
「まさか、まさか景子がなあ・・・あいつ、タフで、俺なんかよりよっぽど男らしいやつで・・・」
顔をしかめてうどんをすすりこむ竜生に、駿が同意する。
「景子も真那も、強かったよ。健二なんか、よく真那に蹴飛ばされてたからな」
「真那は元気なんだろ?駿はそう言えば、なんで京都にいるんや?」
竜生の質問に、駿は困ってざるそばを箸でつまむ。唐揚げ定食にかぶりつきながら、健二が笑いをこらえる。
「駿はちょっとこっちに家を借りてね。仕事してるのさ、なあ?」
「なんや、みんな今、京都におるんかいな。星のめぐり合わせ、ちゅうやつかな」

 食事を終えると、竜生は一旦実家に戻って眠ると言って、病院の玄関でタクシーに乗った。見送りながら、駿が呟いた。
「竜生は、京都人らしくない・・・良いやつだよな」
「京都人全部が、底意地の悪い人種だなんてことが、あるわけないだろ。でも、あいつは、ほんと、良いやつだな」
 市バスに乗るために、駿が歩み去ったあと、健二はふと西の空を見た。夏の宵にしては澄み渡った夕空に、沈みゆく太陽の光が美しく照り映えている。
 見とれていると、その景色の端に、見覚えのある、どこか暖かな色が横切った。目を凝らす。
 明るい栗色の髪で、紺色のエプロンをして、大きな花束をいくつも抱えた女性が、びっくりしたように目を見張って、病院の駐車場出口で歩を停めていた。美咲だった。
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