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2004.10.06

小説・残光(仮)第三十七回

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 勅使門近くまで、車を乗り入れて、美咲は停車した。もう、二度と会うことはないかもしれないと思いつつ、健二は美咲の車を降りた。美咲は軽く健二に向かって手を振ると、鋭くターンして車を走らせて行った。
 雨の中を、南禅寺の境内を突っ走る健二は、三門の下に、肩をすくめて立つ真那を見つける。すがりつくように、真那は跳びだしてきた。
「あいつ、この雨の中を、大丈夫なのか?」
「無理をしたら、やばいと思う。まだ、彼は症状が出てないけど、顔とか足にむくみが出たら、もう、かなり」
 傘も持たずに、真那は三門から、法堂、そして水路閣へと歩き回る。
「待てよ、駿のことだ、俺みたいに、当てもなく歩くようなことはしないよ」
健二は真那を引きとめ、水路閣の下で雨宿りする形になる。
「そうだよね、駿は、いつだって理性的で・・・でも、もう、信じられないよ。どうして、駿も・・・健二も、あの頃に、詩織に、そんなにこだわるの?」
真那は駄々っ子のように肩を振り、地面にしゃがみこむ。刺繍の入った白いTシャツに、スリムなコットンパンツ姿が、学生時代のように見せている。
「詩織は、あたしたちを裏切って・・・もう、いないのよ」
「ああ、もう、いないんだな」
健二は、真那の傍らで、水路閣の煉瓦壁にもたれ、呟く。
「そして、駿も、いなくなってしまうのか」
真那は、まなじりを吊り上げて、健二を見上げる。
「なんで、あたしじゃ、駄目なのよ!」
その叫びが、駿に向けられたのか、自分に向けられたのか、健二にはわからなかった。だが、真那は、駿を探すためというより、健二に会いたくて呼んだのだ、ということはわかっていた。
「俺たちは、かけがえのない、友だちだった。詩織は、俺の恋人だった。あの頃が、最高だった。それは、誰にも否定させない」
「理解できないよ。そんな思い出を抱えただけで、健二は生きてきたの?今や、未来のことを考えてくものでしょ」
「あの頃以上にいい時代なんて、なかった。これからだって、ないさ」
健二は乾いた声で言い放ち、壁の煉瓦をいとおしむように撫でた。
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