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2004.10.26

小説・残光(仮)第五十回

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 健二は病室のカーテンの隙間から空を仰いだ。積乱雲が立ち上がって、雷雨を呼びそうな雲行きである。
「ちょっと前まで俺も、今の竜生みたいな気分でいたけどな。駿にも甘ったれのロマンチストとか言われたっけな。だけど、もう、そんな気持ちじゃいられない」
顔を上げた竜生と、振り向いた駿の不審そうな表情に、健二は言葉を叩きつける。
「景子はクスリを飲む前になんて言ったと思う?俺が詩織と会う約束をしていた、あの宵山の日に、景子は、詩織を刺したんだってよ!」
竜生が、ごくりと唾を飲み込んで口ごもる。
「そんなのは・・・景子の妄想や。ヤクにやられて・・・」
「駿にも訊きたい。お前が確かめたっていう、神戸の震災で死んだ詩織、本名はわかったのか?墓は確かめたのか?」
健二の鋭い視線に、駿は激しく瞬きをする。
「あ、ああ・・・本名や本籍は、教えてもらったさ。墓は・・・墓はわからない」
健二は首を振り、歩きながら喋る。
「今になって、俺は、俺のバカさ加減がよくわかったよ。一番大事な詩織のことを、何にも知ろうとしないで、この二十年、まったく、無駄な時間をすごしただけじゃない。あの時、詩織を救う努力を、何一つしなかった!俺は、恋に酔ってただけの、大間抜けさ!」
 ベッドの上に手を付き、健二は老人の耳もとに語りかける。
「春川先生、俺は、あんたにどうしても聞きたいんだ。あんたと、詩織と、景子に何があったのかを」
「無茶言うたら、あかんがな・・・」
竜生が顔色を変えて立ち上がるのに、健二は鋭く指を突きつける。
「おまえ、先生の家の鍵、持ってるだろう。よこせ!今から、家捜ししに行くから!」
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