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2004.10.22

小説・残光(仮)第四十七回

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 奇妙に虚脱した口調で、景子は語り続ける。
「あの宵山の夕方、詩織は、浴衣着てうっとこへ来はったわ。きつい目えして、おとうはん相手に、ゆすりに来たんや。あの研究所の標本や蔵書を横流ししたんを、みんなおとうはんの命令や言うてばらすて・・・もちろん、そんなんデマに決まってた。でも、あん時のうちは、頭ん中が真っ白になった。おとうはんが大学に居れんようになる、うちの留学もあかんようになる・・・そう思たら、もう、わけわからんようになって・・・うちは、詩織を・・・」
 健二は、手の中に脂汗が滲んできたのを感じた。
「うちは・・・気いついたら・・・包丁握って立ってたわ。手首のトコまで、ぬるぬるした血が垂れてきてた・・・詩織の浴衣が・・・赤いいうより、真っ黒になってて・・・おとうはんが、真っ青な顔でうちを抱きすくめて・・・」
 健二が息を飲んだとき、景子は、激しく瞬きした。
「あれは、夢の中のことやったんかな・・・でも、詩織が最後に言うたのを覚えてる・・・八坂神社の、石段に、いかなあかん、健二が、待ってる・・・って」
 胸の中で、熱い塊が回転しているように感じ、健二はグラスを握り締めて立ち上がった。歯を食いしばる健二の顔を見上げて、景子が、不思議に透明な笑みを浮かべた。
「もう、何がほんまやったんか、わからへんのよ、あの頃のこと・・・もう、うちは、疲れた」
そう言うと、景子は胸に下げていたロケットをかちりと開いた。中に入っていた何かを取り出すと、震える指で、景子はそれを口に含み、カクテルを流し込む。
「何をした!」
健二が叫んだとき、景子はカクテルグラスをカウンターに叩きつけ、突っ伏した。
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