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2004.10.18

小説・残光(仮)第四十五回

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 見物客に突きあたり、よろけ、ぶざまに逃げていく景子の後姿に、健二は怒りが湧いてきた。
(なぜ逃げる?そして、あの頃、あんなにも毅然と美しかったお前の、その有様は一体なんだ?)
 獰猛なまでの衝動に駆られて、健二は猛然と追跡した。高張提灯が揺れ、祇園囃子がうねる中を、夜叉のように走った。

 八坂神社の境内を北に抜け、地下駐車場出入り口辺りから、東へ向かって、強引に祇園会館前の東大路を渡り、飲食店街をジグザグに迷走した挙句、白川通り沿いに、景子は鴨川のほとりに出た。黒のブラウスは汗で貼り付き、乱れた髪の中から、絶望的なまなざしが健二を振り返る。もはや走る力はなく、立ち止まった景子は、まだ手にしていた花束を、刀のように健二に突きつけた。
「あんたが、今夜あそこにいるやなんて!詩織が呼んだんやな!やっぱり、うちを恨んでるんやな、詩織は!」
「落ち着けよ、景子。大丈夫か?おまえ、何か勘違いしてるぞ。詩織がどうしたって?」
冷徹に言葉を選びながら、健二は低い声で景子を諭すように言う。
「おれは、あれからずっと詩織に会ってない。今、どうしているかも知らないんだ。何か知ってるのなら、教えてくれないか?」
 景子の緊張しきっていた全身から、力が抜けていく。へたり込みそうによろめく。とっさに健二が腕を伸ばすと、景子は健二の肘をつかんで立ち直った。憑き物の落ちたように、その顔から怯えが消えている。上目遣いに見上げたその瞳に、意志の強い輝きが戻っていた。
「ごめんね、取り乱してもうて。息が切れてしもた。その辺でちょっと喉湿したいわ。つきおうてくれへん?」
 背筋を伸ばして健二をまっすぐに見る景子は、驚くほど昔の雰囲気に戻っている。健二は内心、舌を巻きながら、頷いて景子と並んで歩き始める。
 四条通の喧騒から、ほんの百メートルほど離れただけで、嘘のようにひっそりと落ち着いた一角があり、その古いビルの階段を登って、景子はオーク材の扉を開けた。カウンター席に座ると、目の前に鴨川の景色が見える、ちいさなバーだった。
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