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2004.10.15

小説・残光(仮)第四十四回

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 健二は痺れたようになって、ぎこちなく振り向いた。門の中の石畳に、女性の影があった。
 詩織がやってきたのか?という歓喜と疑惑と驚愕が混ざり合い、健二は言葉が出ない。しかし、目が暗がりに慣れると、その人影が詩織でないことは即座にわかった。
 女性は、黒っぽいブラウスに、やはり黒のスラックスを履いている。詩織よりも大柄で、体型も太り気味である。後手に何かを持ち、健二を怖れたようにじりじりと後ろに下がる。やがてその顔に八坂神社内の燈が当たった。四十代とおぼしき女性で、長い黒髪を真ん中でわけて垂らし、真紅の口紅が青ざめた顔に浮いている。顔立ちからは健二には名前が浮かんでこない。
 そのとき、香りが健二の鼻腔に届いた。瞬時に記憶が蘇った。
「この香水は・・・景子?春川景子かい!」
目を見張って健二は足を踏み出した。女性は、とってつけたような愛想笑いを浮かべた。
「久しぶりやね、まさかと思ったけど、やっぱり健二やったんね」
 景子の容貌には、歳月の跡が濃く滲んでいた。あまり学生時代と変わっていない真那と会った後だけに、かつては誰にも負けない美貌を誇っていた景子の変容は、痛々しくさえ思えるほどだ。だが、それはおそらく、景子がぶざまなほどに慌て、おびえているせいかも知れないと健二は感じた。
「相変わらず、シャネルをつけてるんだ。香りでわかったよ」
「そ、そやったの」
「ずっと、ヨーロッパ暮らしが続いてるって聞いてるけど、祇園祭だから帰って来たのかい?」
「ううん、えと、おとうはんの具合がようなくて、先月から戻ってきてん」
 そわそわと落ち着かない景子の様子に、どうしても不審を抑えきれず、健二は訊ねた。
「どうかしたのか?手に持ってるもの、なに?」
「よ、寄らんとって!」
悲鳴に近い叫びを上げた景子に、周囲の視線が集中した。
「どうしたっていうんだよ?」
困惑する健二に、景子は耐えられなくなった様子で背中を向けて走り出す。手に持っているのは、花束だ。まるで、墓に供えるような・・・
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コメント

はや44回ですか。ここにきて春川景子の登場。何かありそうなこの女性。話にどうからんでくるのか楽しみです。
久しぶりにあった女性が昔の面影を残していないっていうことは、30半ばを過ぎるとよくありますね。結婚している人がほとんどになるでしょうから、仕方がないって言えばそうなのかもしれませんがね。
私の職場には私と同じ歳で独身の人がいますが、その人は驚異的に若く見えます。その人とは大学で学部が同じだったのですが、そのころと印象が変わっていません。同期入社なのでそのころ同じ同期の男共と同期の女性の中で誰が一番最初に結婚するかなんて話をしていたときには、まさかその人が最後になるなんて事は誰も思わなかったんですがね。そういう事って結構あるんではないでしょうか。
と、話が脱線してしまいました。これからも読みますので頑張って続き書いて下さい。では、また。

投稿: miyamo | 2004.10.16 20:08

miyamoさん、コメントおおきに!
わし自身は、昔と比べると外見はどう見えるのかなあ?などと思いつつ、書いております。
歳月は残酷だけれど、結構万人に公平なのかな・・・などとも思いながら(^^)

投稿: 龍3 | 2004.10.18 14:27

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