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2004.10.04

小説・残光(仮)第三十六回

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 健二は言葉に詰まった。車が停まった。寺の長い塀が続く小路で、車も人も少ない。境内に生えている樹から雨のしずくが落ちてきて、車の屋根に重い音を立てた。
 美咲が、健二に顔を向ける。返事をしなければいけない、と健二は思った。
 そのとき、健二のポケットで携帯電話が、パッヘルベルのカノンを奏でた。
「はい、柳田・・・」
「ごめん、あたし、真那。悪いけど、すぐに来て欲しいんだ」
「なんだ?ひょっとして、駿と会ってたのか?」
「ええ。明日にはあたし、仕事だから、今日の新幹線で駿を連れて帰ろうと思って。で、昼ごはん食べながら、話してたんだけど・・・」
真那の声は動揺している。
「話は・・・決裂か?」
「駿、どうしても帰らないって言うから、あたし、頭にきて、彩夏って子に、駿の病気を教えてやるって、言っちゃったんだ」
「ばかなことを・・・」
健二は唇を噛む。真那の声が後悔に滲んでいる。
「駿は、真っ青になって怒って、店を飛び出して、どこにいったかわからないの」
「今、どこにいるんだ?」
「南禅寺の近く・・・」
「じゃあ、南禅寺の三門のところで待ってろ。すぐに行くから」
 健二が電話を切って、美咲の方を向いたとき、車はゆっくりと発車した。驚く健二が言葉を発する前に、美咲は言った。
「送ったげるし、シートベルトしとき。南禅寺なんて、目と鼻の先や」
それきり、美咲は健二を一瞥もせず、運転を続けた。
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