« 小説・残光(仮)第二十三回 | トップページ | 小説・残光(仮)第二十五回 »

2004.09.06

小説・残光(仮)第二十四回

fullmoon.JPG

----------
 夜空にそびえる塔を見上げて、健二は噛み締めるように言う。
「覚えているか?あの頃・・・今では信じられないくらい、寺や神社に、夜も自由に出入りできた。この塔の扉をこっそり開けて、登った夜のことを」
「無茶をしたよね、本当に・・・あの頃は、何でも出来た。何でもやれる力があると、信じていた・・・」
「その病気と、たたかって勝つ力があるとは・・・信じられないのか?」
健二の問いかけに、駿は笑顔で首を横に振る。
「治療法は、まだないと言っただろう?奇跡でも起こらなければ、治癒はしない」
「そのことを、あの子、彩夏は、知っているのか?」
駿は、凍ったような笑いを浮かべ続ける。
「彼女は知らない。知らないから、一緒に暮らせるのさ・・・わかるか?真那は僕の病を知っている。僕をいたわり、励まし、望みのない闘病生活に最後まで付いていてくれるだろう。真那は、そういう女性だ」
「わかるさ、真那は、そういうやつだ」
「だから、一緒にはいられないんだ。苦しいんだよ、辛いんだよ、真那の目を見るのが」
健二は、唇を噛み締めて駿の顔を見つめ、何も言えずに右拳を左の掌にたたきつけた。駿は歌うように言葉を続ける。
「真那といると、四六時中病気のことを意識して、息が詰まるんだ。何も知らない彩夏と、そのときが来るまで、病気のことを忘れていたいと思って、僕は京都に来た。身勝手だろ?でも、それが正直な気持ちなんだから、しかたがない」
 しばらく沈黙して、月を見上げていた健二は、呻くように言った。
「畜生、なんで、おまえ、酒が飲めないんだよ。こんなときは、一緒に酔っ払って、二・三発殴り合って、鴨川を渡りでもしなきゃ、やってられないぜ・・・」
----------

|

« 小説・残光(仮)第二十三回 | トップページ | 小説・残光(仮)第二十五回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/20826/1367126

この記事へのトラックバック一覧です: 小説・残光(仮)第二十四回:

« 小説・残光(仮)第二十三回 | トップページ | 小説・残光(仮)第二十五回 »