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2004.09.25

小説・残光(仮)第三十三回

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 膝を抱え、どこまでも広がる水面を見ながら、健二は時間の感覚を喪った。

 詩織と真那が、笑顔で木造の研究所の階段を上がってくる。
「スイカ、買ってきたよ!おやつにしよ!」
真那の明るい声が弾み、詩織が埃まみれの健二に、絞ったタオルを手渡す。健二と詩織は、どちらからともなく微笑みあい、詩織が小さな声で言う。
「今夜、バイトの休み、オッケーやったよ」
健二はみんなにわからないように、瞬間的にガッツポーズをして喜ぶ。
「じゃあ、また、八坂神社の石段で」
 研究所整理の仕事を仕舞い、銭湯に行って夕食を終えると、健二はなんとか駿をごまかして、宵闇の中を八坂神社に急ぐ。夜のバイトが休めるとき、そこで詩織が待っている。
 四条通を並んで歩き、鴨川のほとりに座ったり、河原町の喫茶店で珈琲を飲んだり・・・僅かな時間だが二人だけで過ごすかけがえのないデートである。
「いつか、琵琶湖でシヨウボートに乗ったり、しようか」
健二は、そんなことを口にしている。詩織は口数少ないけれど、きらめく瞳で、健二の言葉に頷いている。

 湖からの風が、健二の汗と涙を乾かしていった。雲の切れ間から射す陽射しが、いつしか琵琶湖の向かい・・・西側に回っていた。ひどいのどの渇きを覚えて、健二は立ち上がる。振り向いて、目を見張る。
 スダジイの根方に腰を下ろし、太くねじくれた幹に背中をもたせかけて、みさきはまだそこにいた。軽く目を閉じ、樹と一体になったように、少しも無理なところを感じさせない姿勢で、静かに座っていた。
「まだ・・・いたのかい?」
健二のためらいがちな声に、みさきは目を開け、かすかに微笑んだ。
「暑いな・・・のどからからになってもうた・・・なんか、飲むもん買いに行かへん?」

 ハンドルを握ったみさきは、ゆっくりと湖岸の道を行く。対岸の、岬のように突き出た地形を見て、健二はふと訊ねた。
「みさきって名前、どんな字を書くんだい?」
「美しく、咲く、やけど」「そうか」
「灯台とかのある、岬とちゃうで」「そりゃあ、そうだろうさ」
 なぜか、気兼ねなく言葉を交わしていることに気付き、健二は自分に驚く。同時にみさき・・・美咲への疑問が湧きあがった。
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