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2004.09.22

小説・残光(仮)第三十二回

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 みさきは頷いて、さらにスピードを上げる。三条通を東に突き進み、蹴上から山科へ、そして逢坂を越えて、大津へと突っ走った。疾走する車の振動が、健二には揺りかごの様に思えた。
 近江大橋を渡り、琵琶湖の東岸に出て、湖周道路を北上した車は、やがて汀の公園の駐車場に停車した。

「せせこましい京都がいやんなると、うちは、いつも湖を見にくるんや」
 そう言って、みさきは車を降りた。健二も助手席のドアを開けて、湖岸の砂を踏んだ。
 湖が、あった。
 曇天の下、砂浜には誰も人影はなく、水面がきらめいていた。
 みさきは、砂地にたくましく根を張ったスダジイの樹に寄りかかって腰を下ろした。
「ここで、ええか?」
「ああ・・・ありがとう」
 健二は呟き、水際へ歩いていった。
 かすかな波が、石くれを洗っているのを見つめ、目を上げて湖面をながめた。固く締まった砂に座り、空を仰いだ。
 光が、あった。
 生きている自分がいた。
 待ち続けた恋人の死を知って、空っぽになってしまった自分がいた。
 恋人にそっくりな少女に会って、もはや、恋人がこの世にいないことを、思い知った。
 待ち続けた日々が雪崩を打って砕け散って、健二は、ただ、泣いた。

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