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2004.09.18

小説・残光(仮)第三十回

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 言葉をなくした健二に、涙に濡れた瞳を向けた彩夏は、怒りを帯びた声で言った。
「うちが駿さんの病気を知ってるいうこと、絶対ばらしたらあかんで」
「ちょっと待ってくれ、君は、その病気がどんな病気か知っていて、駿とずっと暮らしていくつもりなのか?」
「そうや。それがなんか悪い言うん?」
 再び沈黙した健二から視線を逸らし、彩夏はバッグから携帯電話を取り出し、二つ折りのそれを開く。
「あ、みさきさん?話はじきに終わるさかい、来てくらはる?うん、今熊野まで送ってくれればええ」
そこで一旦、携帯電話を顔から離し、彩夏は感情を殺した声で、健二に訊ねる。
「あんさんは、どないしはります?ついででよかったら、一緒に乗らはりますか?」
 健二は首を横に振った。彩夏はもう、健二を見ることなくみさきと短く会話し、通話を終えた。
「もう一つ、訊いていいだろうか?」
健二が遠慮がちに口にすると、彩夏は敵意に満ちた瞳のまま、じっと健二を見返す。
「詩織が、震災で亡くなったというのは、確かなのかい?」
「駿さんがしっかりそれは、確かめたいいます」
「君のご両親は?」
「聞くのは一つだけやなかったの?・・・まあええわ。さっきうちがした話のなかで、嘘はひとつだけや。詩織さんとうちが親子、言うところだけや」
 不意に、健二の胸が苦しくなった。詩織が死んだ・・・そのことを、やっと現実のものと認識したらしい・・・健二はそう、自分を分析しながら、歯を食いしばり、うつむいた。
「先に、行かせてもらうよ」
やっとのことで、それだけの言葉を言うと、健二はレシートをつかんで立ち上がり、彩夏に顔を見せないように、出口に向かった。
 その後姿を、彩夏は憎悪とも哀れみともつかない表情で見送る

 坂道を歩いて下るうちに、溢れ出した涙を拭おうともせず、健二はただ乱暴に足を運んだ。祇園祭の頃の、ひどい蒸し暑さは今日も変わらず、汗がシャツを濡らすが、身体は震えて冷たい。やがて坂は緩やかになり、涙に歪む健二の視界の中に、京都タワーがそびえた。
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