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2004.09.17

小説・残光(仮)第二十九回

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 彩夏は、深く椅子に腰を落とし、卓上のウエッジウッドの珈琲カップを意味もなくいじった。健二もまた、黙って青い清水焼のカップをとり、珈琲を啜った。
「なにか・・・すごくもろい橋を渡ってるんじゃないか?駿も君も・・・」
健二がささやくと、彩夏は途切れ途切れに話し始めた。
「駿さんが来はったとき、うちは・・・もう、どないもならへんことになってて、お金を稼ぐために、キャバクラ嬢になれ言うて、無理強いされてた・・・駿さんは、うちを助けに神さんが遣わしてくれたみたいに思えたんや。・・・さんざんお金を勝手に持ち出したおばあちゃんのうちには、帰れへん。友だちんトコを渡り歩くうちに、やばい連中に目え付けられて・・・」
 健二は(詩織はホステスやってた)と言った駿の言葉を思い出す。
「そやさかい・・・駿さんが、詩織言う人の娘かって聞かはったとき、思わず、うん、言うてしもた・・・そうせな、駿さんはうちを放ってどこかへいんでしまう・・・そう、思た」
 彩夏の肩が震えているのに、健二は気がつく。
「駿さんは、すぐに、あのうちを借りてくれはった。学校へも行かせてくれる、言わはった。うちは、勉強嫌いやし、駿さんに恩返ししたくて、働き始めた。今は、今熊野のスーパーでレジ打ってるんや。駿さんは、ほんまのお父はん以上に、うちを大事にしてくれはる。うちは、うちに出来ることは・・・詩織さんの娘になりきることや、と思うた」
 彩夏の瞳から涙がこぼれた。健二の胸に、あの頃の痛みが蘇った。
(詩織も、一度だけ、俺に涙を見せた)
 その痛みを振り切るように、健二は奥歯を噛み締める。目の前にいる、詩織そっくりの美しい少女を、さらにいたぶりたいという残酷な感情を抑えきれない。
「君は、駿に嘘をついていた。だが、駿も君に嘘をついているんだ」
「え?奥さんのこと?そんなん、知ってるよ」
幼い表情で反論する彩夏に、健二は追い討ちをかけようとして、辛うじて踏みとどまる。
「そうじゃなくて、からだの・・・いや、いい」
 健二の背中に冷たい汗が流れる。酷薄な暴露をしようとした自分に愕然とする。
 だが、彩夏の表情に変化が起きていた。強く唇を噛み締め、思いつめた顔つきで、少女は呟いた。
「げんぱつせいはいこうけつあつしょう」
「なに?!」
健二は、驚いて聞きなおした。
「原発性肺高血圧症。駿さんの病気や」
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