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2004.09.16

小説・残光(仮)第二十八回

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 健二は目を窓の外に向けた。雲間から漏れた陽光が、煉瓦壁に這った蔦の葉を瑞々しく輝かせる。
「駿は、真面目で引っ込み思案だけど、頑固なとこがあって・・・でも驚いたよ。仕事も家庭も捨てて・・・青春の残り火に息を吹きかけるなんてな」
 呟いた健二の言葉に、彩夏は目を強く輝かせ、少し乗り出してくる。
「うち、おかあはんのこと、あんまり知らへんのです。子供やったし、若い頃の話とか、なんも聞かへんまんまで・・・健二さんも、おかあはんのこと、好きやったんでしょ?」
「それを聞きたくて、俺をここまで連れて来たのかい?」
 頷く彩夏に、健二は目を閉じて、沈黙した。小さく流れていたバロック音楽のBGMが、部屋の中に満ちた。
「・・・祇園の、八坂神社の石段で、初めて二人だけで待ち合わせてデートをした。最後の約束も、あそこだった。詩織を俺は・・・ずっと待っていたんだ」
 彩夏の唇から、ため息とも、喜びの声ともつかないものが漏れた。
「話しておくれやす。おかあはんが、どんなものが好きやったのか、どんな風に暮らしてはったのか、どんな風に、恋をしやはったのか」
 健二は、すっ・・・と身体を前に倒し、彩夏に顔を近づけて、目を開いた。怯んで少し身を引いた彩夏に、健二の低い声が届く。
「初めてデートしたのはね、詩織の誕生日だったんだ。何月何日だったか・・・知ってる?」
彩夏は笑って、頷く。健二は視線を彩夏の顔に据えたまま、畳み掛ける。
「何月何日か、言ってみてくれ」
 彩夏は笑顔のまま、早口で言った。
「バースデープレゼント、きっと神戸の家にもあったんやろけど、震災でなんもなくなってもうて・・・」
「答えてくれないか」
健二が重ねて尋ねると、彩夏は、曖昧に笑いながら、首を横に振る。
 健二はしばらく、ゆがんだ微笑をたたえて彩夏を見つめ、やがてうつむくと、珈琲カップを手に取った。
「駿はね、嘘をつくとすぐわかる。あいつは、君の事を、詩織の娘だと本当に信じている」
「あの・・・」
哀願の表情で、彩夏は腰を浮かしたが、健二は容赦なく言い放った。
「でも・・・違うな。君は、詩織の娘じゃない。」
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